AIで8時間浮いたら、どうする?
BCG(ボストン コンサルティング グループ)が2026年に世界14の国・地域、約1万2,000人を対象に行った調査では、日常的にAIを使う一般従業員の42%が、AIによって週に1営業日分、8時間以上の時間を生み出せていると回答しています。
ところが、その一方で66%は、浮いた時間を何に使えばよいのか、会社から十分な指針を示されていないと回答しています。
つまり、「AIを使いましょう」までは進んでいる。
でも、「AIで生まれた時間を何に使うのか」までは、まだ決まっていない会社が多いということです。
ここには、大きく二つの考え方がありそうです。
仕事が8時間減った。だから、人も減らせる。と考えるのか。
仕事が8時間減った。では、その8時間で、今までできなかった何をしよう。と考えるのか。
似ているようで、この二つはかなり違います。
「改善したら自分の仕事がなくなる」では、改善案は出てこない
この話を考えていて思い出したのが、トヨタの「カイゼン」の話です。
トヨタ流の改善について紹介しているLean Enterprise Instituteでは、元トヨタ幹部の古田清氏が、改善を進めるためには雇用の安定が重要であり、改善によって人が余ったからといって、その人を解雇するべきではないという考え方を説明しています。
理由は、とても分かりやすいです。自分が一生懸命に仕事を改善した結果、「あなたの仕事がなくなったので、辞めてもらいます」となるのなら、誰が進んで改善案を出すでしょうか。むしろ、改善しない方が自分を守れることになってしまいます。
トヨタ自動車も、人事労務の基本的な考え方として、会社は従業員の「雇用の安定を最大限に考慮」し、従業員は会社の繁栄のために協力するという「相互信頼・相互責任」を掲げています。カイゼンと雇用の安定は、別々の話ではないのだと思います。
AIでも、同じことが起こるのではないか
これは今のAI導入にも、そのまま当てはまりそうです。現場で働いている人が、「この作業、AIを使えば半分の時間でできます」「この仕事は自動化できます」「このやり方なら、毎月10時間減らせます」と気づいたとします。本来なら、会社にとってありがたい話です。
ところが、社員が「効率化したら、人を減らされるかもしれない」と思っていたらどうでしょう。積極的に改善案を出すでしょうか。おそらく、出しにくくなると思います。そう考える方が合理的な仕組みになってしまっている、ということです。
「もっとAIを使え」「もっと効率化しろ」「もっと改善案を出せ」と言いながら、その成果を人員削減だけに結びつけてしまえば、現場から知恵が出なくなる。AI活用は、ツールだけを導入すれば進むものではないのだと思います。
AIを導入すること自体が目的になってしまう問題については、前回の「AI導入が『徳川埋蔵金探し』になっていないか」でも書きました。
浮いた時間で、何をする会社なのか
では、AIによって生まれた時間を何に使うのか。例えば、残業を減らす。お客様と話す時間を増やす。若手を育てる。新しい技術を学ぶ。新しい商品やサービスを考える。これまで忙しくて後回しになっていた仕事をする。仕事そのものを、もう一度組み立て直す。いろいろあると思います。
実際、BCGの2026年調査でも、単にAIツールを導入するだけではなく、AIを使って仕事の流れそのものを再設計した企業では、事業成果だけでなく、仕事への満足度などでも違いが出ていると報告されています。
AIで何時間減らせたか。もちろん、それも大切です。でも本当に問われるのは、その先なのではないでしょうか。
その時間で、何を増やしたのか。
こちらの方が、その会社らしさが出ると思います。
これは採用にも関係してくる
そして、この話は採用とも無関係ではありません。求職者から見れば、「AIを導入しています」だけでは、会社の魅力はほとんど分かりません。知りたいのは、その先です。
AIによって仕事はどう変わるのか。自分はどんな仕事をするようになるのか。身につけた経験や技術は、これからどう生かされるのか。新しく生まれた時間を、会社は何に使おうとしているのか。そこを説明できる会社と、できない会社。これから少しずつ差が出てくるのではないかと思います。
AIによって仕事そのものが変われば、当然、そこで働く人に求められる役割も変わります。だから採用情報も、「仕事内容」「給与」「休日」だけを書いて終わりでは足りなくなっていく。
この会社では、人にどんな仕事を任せようとしているのか。人をどう育て、どんな役割を担ってもらおうとしているのか。
そんな会社の考え方まで、伝える必要が出てきます。
採用情報は、仕事内容や待遇だけを伝えるものではありません。「この会社は、人をどう考えているのか」も、応募を考える人が会社を見る大切な材料になります。MRDでは、そんな会社の考え方まで伝わる採用広報をお手伝いしています。
AIを使える会社より、人が安心してAIを使える会社
これから採用で強いのは、単に「AIを使える会社」ではないのかもしれません。社員が、「もっと良いやり方がある」「この仕事はAIに任せられる」「こうすればもっと効率化できる」と、安心して言える会社。そして、そこで生まれた時間を、次の仕事や人の成長、新しい価値へ振り向けられる会社。そういう会社の方が、結果としてAIも使いこなせるのではないでしょうか。
AIは、どの会社でも使えるようになっていきます。だからこそ差が出るのは、AIそのものではなく、AIによって生まれた余力を、会社が何に使うのか。なのかもしれません。効率化によって人を減らすのか。人が、もっと価値のある仕事をするために使うのか。その選択には、その会社が人をどう考えているのかが表れます。
そして求職者も、案外そういうところを見ているのではないかと思います。
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参考資料
・トヨタ自動車「トヨタで働く人材(自社の労働力)」
・Lean Enterprise Institute「3 Go-To Ways for Creating a Culture of Continuous Improvement Anywhere」
・Boston Consulting Group「職場におけるAI活用に関する意識調査2026」


