【計算シリーズ】箱根駅伝優勝は売上何億円分か?青学駅伝チームから逆算する「選ばれる大学ブランド」の計算式

「箱根駅伝」の強み。「強いチーム」と「強いブランド」は表裏一体?

少子化で、大学の「学生募集」は年々シビアになっています。

学部改組、広報強化、オープンキャンパス刷新、SNS運用……やることは多い。けれど、どれも“効くまでに時間がかかる”のが現実です。

そんな中で、強烈に目を引く成功例があります。

青山学院大学の駅伝です。

正月の2日間、テレビやネットの画面に大学名が繰り返し映り、実況で校名が何度も呼ばれ、勝敗とドラマで語られる。結果として、大学ブランドの想起が一気に上がる。「強いチーム」と「強いブランド」が表裏一体に見えるのは自然なことです。

箱根駅伝が別格扱いされるのは、単に人気があるからではありません。大学ブランドにとって「効く構造」を持っているからです。

  1. 露出が圧倒的に大きい
    正月の恒例行事として全国的に視聴され、視聴率水準が高い大会として報じられています(例:2025年大会の高視聴率報道)。
  2. 校名が“反復される”
    2日間、長時間。順位変動のたびに校名が繰り返し露出します。広告より強いのは、この“反復想起”です。
  3. 毎年「続編」が生まれる
    区間配置、逆転、主将・監督のコメント、選手の背景。箱根は物語装置として完成度が高い。
  4. “強い組織”のイメージが大学全体に波及する(ハロー効果
    受験生・保護者に「しっかりした大学っぽい」という感情を呼び込みやすい。学力評価とは別軸で効きます。

だからこそ箱根は、“最たるもの”になり得る。これは事実です。

では、学生獲得に悩む大学は、駅伝日本一を目指すべきでしょうか?或いは駅伝に限らず“何かスポーツで一位を取る”ことを目指せばよいのでしょうか?

「箱根を目指せば解決!」は危険

少子化が進み、大学の学生募集はもはや「広報」ではなく「経営」のテーマです。深刻で、重大です。

実際、2025年度(令和7年度)の集計では、私立大学・短期大学等で入学定員充足率100%未満の学校が316校(53.2%)とされています。

この状況で重要なのは、ブランドを“ふわっとした印象”で語らず、どの数字を、どれだけ動かせば、入学者が増えるのかを把握することです。

さらに、大学スポーツはブランドへの波及が大きい分、不祥事・炎上が起きたときの毀損も大きい。ガバナンスと発信ルールが先に必要になります。

「とにかく強い部活を作ればいい」という単純な話ではなく、自大学の強みと結びつく象徴コンテンツを育て、大学全体の物語として設計している点が(青学の強さの)本質です。

青学駅伝チームは、単なるスポーツ強豪ではなく、大学ブランドと経営資源(志願者・スポンサー・地域連携)を生み出す装置になっています。

見習うべきは「駅伝」ではなく「仕組み」、もっというと「ブランド価値づくりの仕組み」です。

MRD通信

MRD計算シリーズとして、まず定義してみましょう。

ブランド価値(採用/学生募集の文脈)は、ざっくり言えば次の積で表せます。

Δ入学者数=定員×Δ充足率

そして、経営インパクトは

Δ売上(概算)=Δ入学者数×学生LTV(4年間)

ここでいう「LTV(※)」は学納金の合計に近いものです。

文部科学省の調査(令和5年度入学者)では、私立大学(学部)の平均として、授業料 959,205円、入学料 240,806円、初年度学生納付金等合計 1,477,339円が示されています。

※ LTV(Life Time Value:ライフタイムバリュー)とは顧客生涯価値」のことで、一人の顧客が取引開始から終了するまでの期間に、その企業にもたらす利益の総額を示すマーケティング指標です。リピート購入や長期的な利用を通じてLTVは高まり、新規顧客獲得コスト(CAC)との比較で、どの顧客層に注力すべきか、どれだけの費用をかけるべきかを判断するのに役立ちます

この平均値を“計算用の単価”として置くと、保守的に、以下の費用が導き出されます。

  • 学生LTV(4年)概算
    1年目 1,477,339円 +(2〜4年目 授業料 959,205円 ×3)
    4,354,954円(約435万円)

学生は1人当たり、大学に、4年間で、435万円の売上をもたらす として話を進めます。

LTVが約435万円であるなら、増えた入学者数ごとのインパクトはこうなります(概算)。

  • + 5人:約2,177万円
  • +20人:約8,710万円
  • +50人:約2億1,775万円

「スポーツで話題になる=広報の話」に見えても、実態は“入学者が数十人動くかどうか”の投資判断です。

学生募集のプロセスを分解すると、大学のブランドは主に次の2点を動かします。

  • 認知(知っている)
  • 好意・信頼(良さそう/安心できそう)

ここが上がると、後段の「志願」「歩留まり(入学する確率)」が改善します。つまり、スポーツはしばしば“充足率(または歩留まり)を押し上げる装置”として効くというわけです。

箱根駅伝が別格になりやすい理由は、感情論ではなく「入力(露出)」が桁違いだからです。“校名想起を一気に引き上げる装置”として極めて強く作用しています。

  • 第101回(2025年)の中継は、関東地区の平均世帯視聴率が往路27.9%・復路28.8%と報じられています。

この規模の露出が、2日間・長時間・反復的に発生するのですから、その効果たるや!

箱根駅伝は、単なる正月のスポーツイベントではなく、「大学ブランドの巨大なショーケース」になっているのです。実際、箱根優勝校や上位校では、その年の志願者数が大きく増えたケースが複数報告されていますし、青山学院大学も箱根初優勝の2015年前後に志願者数が3000人以上増加し、その後も駅伝の好成績とともに右肩上がりで推移したそうです。

よって箱根は、ブランド方程式のうち 「認知」への寄与が極めて大きい競技になりやすいのです。

しかし、一方で、箱根駅伝には参加条件があり、誰でもその市場に入れるわけではありません(関東学生陸上競技連盟の枠組みと予選会要項で参加資格が定められています)。 つまり箱根は、「最たるもの」になり得る一方で、参入難易度も最大級なのです。

注意点も同じくらい明確です。

  • 出場・上位が狙える大学が構造的に限られる(地理・リーグ・競技特性)
  • 1位は再現性が低い(選手獲得競争が激しい)
  • 露出が大きい分、炎上・不祥事の毀損も大きい(ガバナンスが前提)
  • 「スポーツで話題づくりをしたが教育の中身が伴わず、ブランド低下につながった」失敗例もある

箱根は「最たるもの」になり得る一方で、“最難関の賭け”でもあるわけです。

あくまで「イメージ」としての計算ですが、青学駅伝モデルで考えてみると…​

  • 志願者数の増加
    青学は2015年の箱根初優勝の年に、志願者数が3000人以上増加したとされる。入試志願者数をブランド指標にしている大学も多く、実際に60%が KPIに設定している調査もあります。​
  • 箱根の広告価値
    箱根駅伝全体の宣伝効果は約60億円相当とも言われ、強豪校のユニフォームロゴは契約金に対し7倍以上の露出価値があるとの試算もでています。 優勝校・上位校は、その中でも特に長時間テレビに映り続けるわけですからね。​
  • パートナーシップ
    ユニフォームロゴの契約金は数百万円〜1,000万円程度が相場とされ、強豪校へは複数社が名乗りを上げます。さらに自治体連携や地域プロモーションなど、金額換算しづらい関係資産も厚みを増していくわけです。

志願者数が3000人以上増加した際の、シンプルな増収インパクトは約1.05億円。これは入学検定料だけでの増分です。

3,000人×35,000円(入学検定料)=105,000,000円

実際には「1人で複数学部を併願する」「方式ごとに検定料が違う」などの要素もあります。なお、大学ブランド価値としては下記に示します。

箱根は「最たるもの」になり得る一方で、参入難易度も最大級。では大学は何を目指すべきか?

スポーツをやるなら、目標は「日本一」より先に、募集 KPI としての“改善幅”を置くべきです。

まず置いてみるKPIとしては…(例)

  • 充足率:+何%pt
  • 歩留まり(入学者/合格者):+何pt
  • 指名検索(大学名検索):+何%
  • オープンキャンパス来場 → 出願率:+何pt

そして、投資判断はこれで足ります。

必要な増加入学者数 = (学生LTV × 利益率または限界利益率)​÷年間投資額

箱根駅伝で「第二の青学」化が難しい大学ほど、次の3軸で「勝ち筋のある旗艦」を選ぶのが現実解です。

  1. 露出があるか(全国/地域大会、配信、地元メディア、学校名が“反復”される仕組み)
  2. 到達可能性があるか(競技人口、強豪集中度、指導・育成の現実性)
  3. 大学の強みと接続できるか(学部、研究、地域連携、就職、企業連携へ展開できるか)

ポイントは、スポーツを“勝敗”で終わらせず、教育価値・研究価値・地域価値に変換して、勝敗のブレを吸収する設計にすることです。

そうです。青学のように箱根駅伝を戦略軸にできる大学は限られていますからね。でも「自分の大学版“青学駅伝”」を持つことは、どの大学でも理論上は可能なのです。​それはスポーツに限りません。

たとえば、

  • 総合大学なら:地域創生プロジェクト、起業支援プログラム、留学ネットワーク など。
  • 工学系大学なら:ロボコン、衛星開発、EVレースなどのプロジェクトチーム
  • 医療・福祉系大学なら:地域包括ケアのモデル事業、在宅医療プロジェクト

それぞれの大学で「自分の大学版“青学駅伝”=うちの駅伝」を考えてみてください。きっとあるはずです。

各大学は無理に箱根的なスターを真似るより、

  • 地域資源 × 特定分野(例:環境・福祉・情報・アート)
  • 中長期で継続可能な強みづくり

を軸に「うちの青学駅伝的存在」を設計するのが現実的だと思います。

「5」の充足率とは違う視点でも大学ブランド価値は計算できます。ここでは、大学ブランド価値 B を、次の3つの要素の和として考えてみます。​

B = S + M + P

それぞれの意味はこうです。

  • S:Student(学生)の増分価値
    志願者数や入学者数の増加による、授業料・受験料・付随収入などの増分。​
  • M:Media(メディア露出)価値
    箱根中継やニュース、ネット記事などに大学名が映ることを、広告費に置き換えた価値。​
  • P:Partnership(連携)価値
    スポンサー、自治体連携、寄付、共同プロジェクトなど、駅伝をきっかけに生まれる関係資産。​

実際の現場では、各要素をざっくりでも数値化して、「駅伝(ないしは自大学の象徴コンテンツ)への投資は、どのくらいのオーダーでリターンしていそうか」を感覚として持てるだけで意味があるはずです。

「うちの駅伝」と見立てたものを、同じ式 B=S+M+P を当てはめてみましょう。​

  • S:その取り組みをきっかけに志願者数・入学者数がどれくらい増えた(増えそう)か
  • M:報道件数、SNSでの話題、サイトアクセスの増加などを見て、広告換算したらどのくらいか
  • P:企業連携、自治体との協定、寄付など「関係資産」がどのくらい増えたか

大学広報の現場ではすでに「入試志願者数」「取材件数」「Webアクセス」などを測定しているところが多いと思います。それらを「1つの象徴プロジェクトに紐づけて束ねる」だけでも、ブランド投資の見え方は大きく変わると思います。

最後に。この計算シリーズとして伝えたいメッセージはとてもシンプルです。

  • 重要なのは「箱根駅伝の強豪校になりましょう」という話ではない。青学モデルの本質は、自大学の強みとつながる象徴コンテンツを育て、それを大学全体のストーリーと接続している点にある。​
  • 少子化で志願者確保に苦しむ多くの大学にとって、学部構成や設備だけでは差別化が難しくなっている。 だからこそ​・・・①地域資源と結びついたスポーツ・文化・研究プロジェクト ②地方創生や社会課題解決に貢献する取り組み ③学生の成長ストーリーが見えるプログラムなど、「この大学ならでは」と言える象徴事業を、時間をかけて育てる必要がある。​
  • 青学駅伝は、その象徴事業がうまく機能した代表ケース。
  • 大学ブランドは「なんとなく評判がいい」ではなく、「具体的な体験(象徴コンテンツ)と、ざっくりした数値」で語れるようにした方が、経営のテーブルに乗りやすい。​
  • 青学駅伝チームのような存在を、「自大学では何にするか」を決め、その投資対効果を B = S + M + P というラフな式で毎年振り返るだけでも、ブランド戦略の解像度は上がる。

大学を取り巻く環境が厳しくなるほど、「ブランド=実態のないイメージ」ではなく、「設計された体験」と「だいたいの計算」で語れることが、経営にとっての安心材料になっていくはずです。

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