【計算シリーズ】社員の「こころの不調」で、会社はいくら損しているのか?

こころの不調による経済損失は7兆円超

先日の新聞で、

  • こころの不調による経済損失は7兆円超
  • うつ病などの患者数は20年で約2倍
  • 相談しやすい環境づくりが必要

という記事を目にしました。

とはいえ、経営者として一番気になるのはそこではなく、「うちの会社で考えると、どれくらいの業績インパクトがある話なのか?」ではないでしょうか。

ここでは、最新の研究データをもとに、社員が健康に働ける会社と、そうでない会社とで業績にどれだけ差が出るのかを、あえて「お金の話」に落としてみます。(ちなみに花粉症で被る日本全体の経済損失は2兆円だそうです)

MRD通信

1. 日本全体では「GDPの1.1%」が、こころの不調で消えている

横浜市立大学と産業医科大学の共同研究によると、働く人が「気分が沈む」「眠れない」といった心身の不調を抱えながら働くことで、日本全体で年間約7.6兆円の経済損失が出ていると試算されています。

  • 損失額:年間 約7.6兆円
  • 日本のGDPの約1.1%に相当
  • 精神疾患の医療費の約7倍

ポイントは、ここで言う損失の多くが

会社を休む「欠勤」よりも、出社はしているが本来の力を出し切れていない「プレゼンティズム」

によって発生している、という点です。

2. 「高ストレス社員」は1人あたり年間133万円の損失

もう少し“会社寄り”の数字を見てみます。

ストレスチェックの結果と生産性の関係を分析した日本の研究では、

高ストレス者は、そうでない人に比べて、1人あたり年間133万円の生産性損失がある

という結果が出ています。

この「133万円」は、

  • 欠勤(休む)
  • プレゼンティーズム(出社しているが能率が落ちている)
  • 医療費など

をまとめて金額換算し、高ストレス者と非・高ストレス者の“差分”として算出されたものです。

つまり会社の中に、「普通に働けている人」1人と、「高ストレス」の状態で働いている人」1人がいると、その差が年133万円分になる、というイメージです。

3.従業員100人の会社で「ざっくり試算」

では、この数字を中小企業サイズに落とし込んでみます。

モデルケース

  • 従業員数:100人
  • 1人あたり平均年収:500万円
  • 人件費合計:5億円/年

として計算します。

ケースA:高ストレス者が少ない「健康な会社」

  • 高ストレス者:全体の3%と仮定 → 3人
  • 1人あたり損失:133万円/年

→ 生産性損失額
133万円 × 3人 = 約399万円/年

ケースB:高ストレス者が多い「しんどい会社」

  • 高ストレス者:全体の15%と仮定 → 15人
  • 1人あたり損失:同じく133万円/年

→ 生産性損失額
133万円 × 15人 = 約1,995万円/年

AとBの差

  • ケースB 約1,995万円
  • ケースA   約399万円

→ 差額:約1,600万円/年(正確には1,596万円)

売上がたとえば10億円の会社だとしたら、

社員のこころの不調が多いだけで、売上の約1.6%分が「何も生まないコスト」として消えている

と考えることができます。これはあくまで「高ストレス者」だけを見た差分であって、

  • 高ストレス手前の「なんとなく不調」層
  • 不調をきっかけとした退職 → 採用・育成コスト
  • ミス・事故・クレームによるロス

などは入っていません。

それらも含めて考えると、売上の2〜3%程度は、心身の不調によって失われていると見ておいても、決して大げさではありません

4.「健康経営」は本当に元が取れるのか?

以前、当社は「健康経営」を定義・発信する側におりました(NPO法人健康経営研究会とのお仕事で)。ですので、ここでは「健康経営」を軸に捉えてみようと思います。

「健康経営」をテーマにした研究では、ストレスマネジメントや睡眠改善などの取り組みによって

従業員1人あたり年間十数万円分の生産性向上効果がある

と報告されているものもあります。

もちろん会社によって数字は変わるわけですが、

  • 従業員100人なら、ざっくり年間数百万円〜1,000万円規模
  • 先ほどの「高ストレス者の差額(約1,600万円)」と合わせると、“数%の利益率改善”につながりうるテーマ

と考えることができます。

5.経営者が押さえておきたい「4つの打ち手」

数字を踏まえたうえで、現実的に打ちやすい手を整理すると、次のようになるかと思われます。

① ストレスチェックの「やりっぱなし」をやめる

  • 結果をそのまま保管して終わり…ではなく
  • 高ストレス者の人数・部署分布・傾向を把握し
  • 組織単位での課題(仕事量・人間関係・裁量の少なさ等)を特定する

ここは、「診断で終わらせず、改善に繋げるかどうか」が勝負どころです。

② 管理職の「声かけ力」を底上げする

  • 疲れているサインに気付けるか
  • 面談で「仕事の話だけ」で終わらせていないか
  • 部下が相談しやすい雰囲気を作れるか(作れているか)

管理職向けに、1on1のやり方や“聴くスキル”を整えるだけでも、「高ストレス者」の割合は確実に変わってくるはずです。

③ 相談ルートを「会社公認」にする

  • 産業医・外部カウンセラー・EAP(従業員支援プログラム:Employee Assistance Program)など
  • 利用しやすい窓口を用意しする
  • また、それを「利用しても評価に響かない」ことを明言する

「無理して我慢して働く」よりも、「早めに相談するほうが、会社にも本人にも得」というメッセージを出していくことがめちゃめちゃ大切です。

④ 働き方そのものを見直す

  • 慢性的な長時間労働
  • 担当者に仕事が集中している属人化
  • 無駄な会議・報告

ここにメスを入れない限り、どれだけメンタル研修をしても焼け石に水…という現場も少なくありません(経験上)。

まとめ:「健康で働ける会社」は利益率で勝つ

ここまでをまとめますと、

社員の心身の不調による損失は、中小企業でも「売上の1〜3%」に相当する可能性がある。逆にいえば、その1〜3%を取り戻す余地がある。

という話になります。

  • 社員が元気に働ける会社は、目に見えないところでミス・離職・クレームが減り、提案や改善が増える
  • その結果として、売上や利益率に“じわじわ効いてくる”

「健康経営」や「メンタルヘルス対策」は、“いいことをしている”という道徳の話ではなく、

「何%ぶんの利益を取りにいくか」という、経営テーマ

として捉え直す価値があります。

「健康で働ける会社」は、静かに“利益率”で勝っていく。と言えるのではないかと考えています。

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