「会社が人を選ぶ時代」は終わり。すでに「人が会社を選ぶ時代」。これからの採用戦略は“選ばれる設計”で決まります

少子高齢化や働き方の多様化が進むなかで、「会社が人を選ぶ」時代から「人が会社を選ぶ」時代へと、静かにシフトが進んでいます。求人を出せば応募が集まり、その中から「良い人」を選ぶ――そんな前提が、現場では少しずつ通用しにくくなってきました。

今、求職者側は、給与や休日数といった条件だけでなく、「この会社の考え方に共感できるか」「自分の生き方と合っているか」という視点で会社を見ています。言い換えると、これからの採用は「人を選ぶ技術」よりも、「選ばれる会社であること」が問われる時代になってきている気がします。

今回は、従来の発想をいったん横に置き、「これからの採用戦略」を考えてみたいと思います。

MRD通信

これまでの採用活動は、おおむね次のようなステップで語られてきました。

  • 応募者を「集める」
  • その中から「見極める」
  • 内定に向けて「口説く」

もちろん、今でもこの流れ自体が不要になったわけではありません。ただ、「人が会社を選ぶ」時代になると、この3ステップには、どうしても見えやすい限界が出てきます。

まず「集める」です。

求人広告、採用サイト、スカウトサービスなど、どれもある程度のコストがかかります。資金力のある企業ほど露出を増やしやすく、どうしても「お金をかけたもの勝ち」の側面が強くなりがちです。

次に「見極める」です。

企業側が定めた基準にどれだけ合うかをチェックするプロセスは、ともすると「企業が上、応募者が下」という一方向の構図になってしまいます。しかし、いまの求職者は、自分の側からも会社を「見極めて」います。この双方の見極めの視点を前提にしないと、「選んだつもりが、選ばれていなかった」というすれ違いが起きやすくなります。

最後に「口説く」です。

条件の上積みや、魅力的なコピーで入社までを後押しすることはできます。ただ、そこでつくられた動機は、入社後の現実とギャップがあれば、早期離職につながってしまいます。「入社してもらう」まではうまくいくのに、「定着して活躍してもらう」ところでつまずくケースが増えているのは、このあたりに原因があるのかもしれません。

もはや、採用で見られているのは、求人票の文言ではありません。仕事の中身、評価の基準、上司の質、残業の実態、転勤の有無、休みの取りやすさ、給与の伸び方、学べること、将来の見通し。要するに、会社そのものが商品になってきています。

これからの採用について考えてみました。MRDが考えるキーワードは次の3つです。

  • 選ばれる理由を先につくる
  • 「人を選ぶ」から「人と組む」へ
  • 採用を「点」ではなく「線」で設計する

ひとつずつ見ていきます。

まずは、「なぜこの会社を選ぶのか?」という問いです。給与や休日などの条件で比較される時代から、「共感できるかどうか」で比べられる時代へと、少しずつ変わってきています。

そのとき、次のようなことが、採用の決め手になっていきます。

  • この会社は、どんな価値観を大切にしているのか
  • どんなお客様の、どんな課題を解決しているのか
  • 社内のコミュニケーションや働き方のスタイルは、どんな雰囲気なのか
  • 社会や地域に対して、どんな役割を果たそうとしているのか

こうした「会社の世界観」が、求職者にとっての「選ぶ理由」になります。

ここで大切なのは、かっこいい言葉を並べることではなく、「実際の姿」と「発信しているメッセージ」のズレを小さくすることです。採用ページ、コーポレートサイト、パンフレット、SNSなど、それぞれで語っていることがバラバラだと、どうしても「本当のところはどうなんだろう?」という不安につながります。

逆に、

  • Webサイトで読んだメッセージと
  • 採用ページで見た社員の声と
  • 面接で会った人の雰囲気が

すべて同じ方向を向いている会社は、それだけで信頼感が生まれます。「選ばれる理由」を先につくるとは、会社そのものを、ひとつの“物語”としてきちんとデザインし直すこと、と言えるかもしれません。

求職者は会社を選んでいるようで、実際には生活を選んでいるのかもしれません。この会社に入ると、朝は何時に出るのか。通勤はどれくらいか。転勤はあるのか。上司はどんな人か。入社1年後に何ができるようになるのか。5年後の給料レンジはどうか。家庭と両立できるのか。この解像度で見せられていない採用サイトは、正直弱い気がします。理念だけ立派でも、人は応募しない。社員インタビューが効くのは、「仲が良さそうだから」ではなく、そこで初めて、働いた後の生活が可視化されるからではないでしょうか。

次の転換は、「人を選ぶ」という考え方を少しやわらげてみることです。

もちろん、どんな会社にも「こんな人と働きたい」というイメージや、必要なスキル要件はあります。ただ、そのイメージが「選別のためのフィルター」になりすぎると、「一緒に未来をつくるパートナー候補」として人を見る視点が弱くなってしまいます。

発想を少し変えて、こう考えてみてはどうでしょうか。

  • この人と組めば、会社の未来はどう広がりそうか
  • この人の強みや価値観を活かせる「役割」は、会社の中に描けるか
  • 一緒に働いたときに、お互いに成長できる関係になりそうか

こうした問いを立てると、面接の場も自然と変わっていきます。たとえば、

  • 「試験の場」から、「共に考えるミーティング」の場へ
  • 一方的に質問して答えを測るのではなく、「こんな課題があったら、どう考えますか?」と一緒に考えてみる場へ
  • 「会社が合否を出す場」ではなく、「お互いに合う・合わないを確かめ合う場」へ

こうした変化が起こります。

また、採用要件の書き方も、

  • 「こんなスキルがある人」だけでなく
  • 「こういう価値観の人には、あまり合わないかもしれません」ということも、正直に書く

というスタイルに変えていくと、ミスマッチを減らす効果があります。合わない方に無理に応募してもらうのではなく、「合う人」にちゃんと届くメッセージにしていくイメージです。

3つ目の転換は、採用を「イベント」ではなく「物語の出発点」として捉える考え方です。

採用活動は、「内定が出たら終わり」ではありません。むしろ、その人にとっての「会社での物語」が始まるスタート地点です。そこで、こんなふうに逆算して考えてみます。

  • 入社して3年後、その人がどのように活躍していてほしいか
  • その姿から逆算すると、入社1年目・2年目は、どんな経験を積んでいてほしいか
  • そのためには、採用の段階で、どんなポイントを一緒に確認しておくべきか

このように、「3年後の物語」から採用基準を考えると、目の前のスキルだけでなく、「その人の伸びしろ」や「会社との相性」も含めて見ていくことができます。同時に、

  • 採用広報(会社を知ってもらう)
  • 選考プロセス(お互いを知り合う)
  • 入社後のオンボーディング(馴染む・役割をつかむ)
  • 育成・キャリア対話(強みを伸ばす・方向性を整える)

といった一連の流れを、“一本の線”として設計していくことが大切になります。採用だけを切り出して考えるのではなく、「人が入ってくるところから、会社の未来を一緒につくっていくプロセス全体」をデザインしていく。これが、「点」ではなく「線」で採用を考えるということです。

厚生労働省によれば、就職後3年以内の離職率は高卒で37.9%、大卒で33.8%。しかも事業所規模が小さいほど高く、5人未満では高卒63.2%、大卒57.5%に達します。採用できたことを成功と見なす会社ほど、その後に人を失う傾向を感じます。つまり本当の採用力とは、採る力ではなく、定着させる力ではないでしょうか。

ここまでの話を踏まえて、中小の製造業やBtoB企業でも、すぐに取り組みやすい一手を4つ挙げてみます。

1. 「こういう人には合わないかもしれません」を書いてみる

採用ページや募集要項に、

  • 「たとえば、こういう働き方を望む方には、あまり合わないかもしれません」
  • 「こういう価値観を大切にしている方とは、一緒に良い仕事ができそうです」

といった一文を加えてみます。これは、勇気のいることですが、その分だけ「マッチする人」にしっかり届くメッセージになります。入社後のギャップも小さくなり、お互いにとって幸せな関係をつくりやすくなります。

2. 若手社員の「1日追いかけルポ」をつくる

1人の若手社員の1日を、写真と短い文章で追いかける「1日ルポ」を、自社サイトや会社案内の中に取り入れてみます。

  • 何時に出社し、どんな準備をしているのか
  • どんな人たちと、どんな会話をしながら仕事をしているのか
  • どんな瞬間に「やりがい」や「大変さ」を感じているのか

こうした「等身大の日常」が見えると、「この会社で働く」というイメージが、とても具体的になります。テキストで語る理念やビジョンとあわせて、「現場の空気感」を伝えるコンテンツがあると、安心して応募してもらいやすくなります。

3. 社長メッセージを「きれいな言葉」から「正直な本音」へ

会社案内や採用ページによくある「社長メッセージ」を、少し見直してみます。

たとえば、

  • 「創業以来の歴史」や「立派な理念」だけでなく
  • 「正直に言って、今こんな課題がある」
  • 「だから、一緒にこういう未来を目指してくれる方に来てほしい」

というように、「今の課題」と「これから一緒にやりたいこと」も、素直に書いてみます。完璧な会社である必要はありません。むしろ、「課題があること」をちゃんと語れる会社のほうが、「自分の力を活かせる場がありそうだ」と感じてもらいやすくなります。

4. 「給料だけではない」は正しい。だが、「給料を軽視してよい」は間違い

経営者はよく言います。「うちはやりがいがある」「人間関係はいい」「アットホームだ」。それ自体は否定しませんが、給与の説明責任から逃げる言い訳になるなら危険です。

実際、学生は安定と給与をより重視する方向に動いています。物価高の時代に、生活コストの現実から目を背けて「想い」で押し切るのは無理があるのです。

これはなにも最高水準の給料を払うべきだ、という話ではありません。なぜこの水準なのか。どう上がるのか。何を達成すれば評価されるのか。こういった点を説明できるようにしておかないといけないと思います。説明できない会社は弱いです。曖昧さは、そのまま不信感に変わっていきます。

「会社が人を選ぶ時代」から「人が会社を選ぶ時代」へ。この変化は、企業にとって決してネガティブなものではなく、「会社そのものを見つめ直す」きっかけでもあります。

これからの採用戦略とは、テクニックやノウハウだけの話ではありません。

  • どんな価値観と世界観の会社でありたいのか
  • どんな人たちと、どんな未来をつくりたいのか
  • その姿を、どれだけ正直に、わかりやすく伝えられるか

そうした「会社づくり」そのものと、深くつながっていきます。

採用の場で問われているのは、「あなたの会社は、どんな人の“居場所”になろうとしているのか?」という問いなのかもしれません。

MRDとしては、ブランドやコミュニケーションの設計を通じて、「選ばれる理由の見える化」と「会社という場の再デザイン」をお手伝いしていければと考えています。

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