村は政治・芸能をはじめあらゆる「業界」にある。なぜ「村」は身内を批判しにくいのか?|おまけ:①業界の村化セルフチェック ②異論を歓迎する会議フォーマット

政治村に住む人は同じ政治家の批判を避け、
芸能村に住む人は同じ芸能人の批判を避け、
落語村に住む人は同じ落語家の批判を避け、
テレビ業界村に住む人は同じテレビ業界人の批判を避け…。

ただ、これは特定の世界の話ではありません。実はこれ、“業界”という単位そのものが持ちやすい構造です。政治・芸能・落語・テレビに限らず、「業界」という単位そのものが、程度の差こそあれ“村化”を起こしやすい構造を内包していると考えています。

村化とは、外への説明責任や競争よりも、内輪の同調と保身が優先される状態です。

そこで共有されるのは明文化されない「空気」であり、「仲間を批判しない」「面倒を外に出さない」といった暗黙の行動規範です。

MRD通信

日本企業では、同調圧力 がイノベーションを阻害しているとの指摘が繰り返しなされています。経団連関連の調査でも、企業の多数が「同調圧力が新しいアイデアの提案や実行を妨げている」と回答しており、これはもはや一部の感覚的な話ではありません。​

同調圧力が強い組織では、次のような現象が起きます。

  • 新規事業や破壊的な提案ほど「空気を読め」と牽制される
  • 不祥事・不正の兆候を見ても「波風を立てない」ことが優先される
  • 若手や外部人材が、数年で業界の価値観に同化するか、去っていく

結果として、業績が悪化しても「構造」に手を付けず、現場に負荷をかける微調整ばかりが増えていきます。

この構造が生む副作用

問題の温存・再発:批判が封じられると、改善は起きず、外部から爆発的に炎上する形で噴き出す。
有能な人ほど去る:まともに言える人が疲弊し、沈黙するか退出する。残るのは“空気に最適化”した人。
信頼コストの増大:外部からは「身内に甘い」「閉鎖的」に見え、全体の信用が下がる。

メディア業界では、同業者や取引先タレントに関する問題が起きた際、「口を閉ざす」「第三者への情報開示を極力絞る」といった対応が繰り返されています。​

そこでは「関係者のプライバシー保護」「風評被害の抑制」といった名目が前面に出ますが、実態としては業界内ネットワークやスポンサーとの関係維持が優先されがちです。

政治の世界でも、派閥・支持団体・メディアとの関係が複雑に絡み合うことで、「同じ村の人間は公然と批判しない」という構図が温存されます。

結果として、市民や視聴者が最も知りたい情報よりも、「村のバランス」を守ることが意思決定の基準になり、説明責任が先送りされます。​

この“村の論理”は、企業にも姿を変えて現れます。

例えば、業界で半ば慣習化した価格設定や、特定ベンダーへの過度な依存、地元人脈だけで閉じた採用などは、いずれも外部との競争や比較から逃れる方向に組織を誘導します。

日本企業の収益源は、設備よりも人材と人間集団の能力にシフトしているにもかかわらず、人材の流動や外部との融合を拒む「ムラ社会」的な構造が、その力を十分に引き出せていません。​

本来は、M&Aや異業種提携を通じて人材集団が境界を越え、新しい組み合わせを生むこと等が競争力の源泉になり得るのに、です。

業界が村化する背景には、いくつか共通する条件があります。​

  • 利害関係が長期固定化しやすい(広告・スポンサー・系列・仕入れなど)
  • 人材の出入りが少なく、顔ぶれがほぼ変わらない
  • 評価軸が「市場」より「業界内の評判」に偏る

この条件がそろうと、「お互いさまだから批判は控える」「同じ穴のムジナに見られたくないから沈黙する」という行動様式が合理化されます。その結果、「世間からどう見られるか」より「村の中でどう扱われるか」が、意思決定の基準になっていきます。

建設、不動産、医療介護、士業、広告制作、学会教育、地域ネットワークなど、さまざまな領域で同じ構造が見られます。共通点は、次の条件です。

  • 顔が見える・狭い市場(同じ人が何度も出てくる)
  • 評判が資産(噂が通貨になる)
  • 外部が評価しにくい(専門性・情報非対称)
  • 力関係が固定(発注者優位、元請け優位、スポンサー優位)
  • 慣行が強い(“これで回ってきた”の重み)

そしてこうした業界では、次のような“村の言語”が増えます。

  • 「それ、ここでは言わない方がいい」
  • 「あの件は触れないで」
  • 「業界のこと知らない人には分からない」
  • 「外に出すと面倒になる」
  • 「今はタイミングが悪い」

ここで重要なのは、発言している本人が必ずしも悪意を持っているわけではないことです。むしろ多くは、秩序維持・炎上回避・関係維持を優先している。しかし、その“短期安定”の積み重ねが、中長期では不安定を生む…。

「同じ村人を批判できない」のは、個々人の弱さというより、批判すると損をするように作られているからです。だから解決も、個々人の覚悟ではなく、損得が逆転する仕組み(批判=価値)を設置できるかどうかにかかります。

村化は、短期的にはトラブルを減らし、心理的には安心感を与えます。しかし、中長期では、企業の成長余地を確実に削ります。​

  • 批判回避により「内省の機会」を失う
    • 不祥事・炎上・クレームが起きても、「あれは特殊事例」と処理し、構造改善につながらない。
  • 同業者に合わせることで差別化を失う
    • 「うちだけ違うことをすると浮く」という理由で、価格・ブランド・メッセージが似たものばかりになる。
  • 若手と外部人材が力を発揮できない
    • 新しい視点ほど「生意気」「空気を読まない」とラベリングされ、やる気のある人ほど組織の外へ流出する。

結果として、業績の悪化は「景気」「人口減」「円安」など外部要因のせいにされ、内部の前提そのものには手を付けないというパターンに陥ります。

必要なのは、誰かが強くなることではなく、批判しても損をしにくい運用です。

① 批判の作法をルール化する

人格を殴るのではなく、議論を動かすための型を決めましょう。

  • 事実:何が起きたか
  • 影響:誰にどんな損益・危険が出たか
  • 改善:どう直すか(代案)

この3点セットにすると、批判が「攻撃」から「品質保証」に変わります。

② 判断軸を外部化する(第三者を置く)

身内の空気だけで裁かない。監修、審査、オンブズマン、外部委員など、“村の外の物差し”があるだけで自浄は回りやすくなります。

③ 手続きを守る(報復を防ぐ)

発言者の匿名性よりも重要なのは、報復が起きない仕組みです。窓口の独立性、記録、プロセス、報復禁止の明文化。ここが弱いと沈黙が合理化します。

④ 利害を見える化する ~ COI(利益相反)の整理

「私は当事者である」「関係者である」を言える場は、議論を誠実にします。利害が透明になると、“批判=裏切り”ではなくなっていきます。COI を整理しましょう。

地方・中小企業は、地理的な「狭さ」と業界の「村」が重なりやすい分、影響がさらに大きくなります。​

  • 商圏も人材プールも限られるため、「あの会社を怒らせると、地域でやりにくくなる」という発想が強まりがち
  • 採用は「知り合いの紹介」「地元高校・専門学校」ルートが中心になりやすく、多様性が生まれにくい
  • 取引先・金融機関・地元メディアとの関係も長期固定化し、緊張感が薄れる

つまり、ビジネス環境の変化が激しいにもかかわらず、「人と関係」はほとんど変わらないため、業界や地域全体がゆっくりと競争力を失っていきます。これは「地方だから弱い」のではなく、「村化しているのに、その前提を疑うきっかけがない」ことが本質的な問題ではないかと感じています。

村的な安心感や、長年の信頼関係そのものは素晴らしい資産です。問題は、それしか持っていない状態にしてしまうことです。​

ビジネスとして「脱・村社会」を設計するなら、少なくとも次のような打ち手が考えられます。

  • 評価軸を「村の評判」から「外の成果」にずらす
    • 業界の慣習に従ったかどうかではなく、「顧客価値」「利益率」「再現性のある改善」に紐づけて評価する。
  • 組織の中に、意図的に「異物」を混ぜる
    • 異業種出身者、他地域出身者、別のキャリア軸(デジタル・デザイン・データなど)を、周縁ではなく意思決定のテーブルに乗せる。
  • 「批判」ではなく「検証」の文化を作る
    • 不祥事・失敗・クレームを個人攻撃に使うのではなく、「なぜ起きたか」「どう制度を変えるか」を淡々と議論する場を定例化する。

この3つを同時に進めると、「村の空気に従う人」が得する組織から、「結果と学習に貢献する人」が得する組織へと、インセンティブの向きが変わっていきます。

「身内を批判できない」は、どの業界にも起きる自然現象です。だからこそ必要なのは、誰かを吊るし上げることではなく、信頼が増える運用です。

批判とは、相手を落とすためではなく、“村の信用を守るための品質管理”として設計できるかどうか。

村が強いほど、仕組みが要ります。仕組みが整えば、批判は攻撃ではなく、改善のエンジンになります。

MRD通信として、読者の皆さんに投げかけたいのは「あなたの業界・会社は、どのくらい“村化”しているか」という問いです。​

  • 同業者や取引先を、批判ではなく「検証の対象」として語れるか。
  • 「昔からこうだから」と言った瞬間、自分の口の中に違和感を覚えるか。
  • 社内の会議で、空気を変える発言を最後にしたのは、いつのことだったか。

これらの問いに正面から向き合うことが、「業界の村」の外に出る最初の一歩になるはずと思ってやみません。

おまけ① 業界の村化セルフチェックシート

貴社・貴業界がどの程度「村化」しているかを測るためのチェックリストです。各項目を、次の3段階で自己採点してみてください。

 3点:よく当てはまる
 2点:どちらともいえない
 1点:あまり当てはまらない・当てはまらない

A. 情報と批判の扱い
  • 自社や同業他社の不祥事・問題について、社内で「原因」よりも「イメージダウン」を先に心配することが多い。
  • 同業者や取引先のやり方に疑問があっても、表立っては口にしづらい空気がある。
  • 社員がSNS等で業界批判めいたことを書くと「やめておけ」と止める文化が強い。
B. 人材とキャリア
  • 中途採用で入ってくる人材は、ほとんどが同業・同職種出身である。
  • 管理職の顔ぶれが、ここ5〜10年ほとんど変わっていない。
  • 「あの人はこの業界しか知らない」という人がキーマンになっている。
C. 意思決定と会議
  • 会議で反対意見が出ても、「結局いつもの落とし所」に収まることが多い。
  • 重要なことは「正式会議」ではなく、根回しや飲み会の場で決まる。
  • 新しい提案より、「去年と同じで」「前例通りで」という言葉の方がよく出る。
D. 外とのつながり
  • 競合や異業種とのオープンな連携プロジェクトは、ここ3年でほとんどない。
  • 他業界・他地域の成功事例を「うちとは違うから」で済ませる場面が多い。
  • 地元・業界内の人間関係を壊さないことが、戦略より優先されることがある。

[ 判定の目安 ]
  • 合計 35〜48点:
    村化リスク高め。「外」に開く仕組みづくりを急ぐ段階。
  • 合計 25〜34点:
    部分的に村化が進行中。特に点数が高かったカテゴリから手を打つ。
  • 合計 16〜24点:
    まだ身動きが取れる状態。今のうちに「出入り口」を制度化すると有利。

重要なのは点数そのものよりも「どの項目で点数が高かったか」を話し合ってもらうこと。そこに意味があります。

おまけ② 「異論を歓迎する会議」フォーマット案

「村化」対策として、最もコストが低く効果が大きいのが、会議の設計を変えることです。以下は、MRD通信で紹介できる「ひな形」のイメージです。

1. 会議の目的を再定義する

議題例:

  • NG:
    「新キャンペーン案について承認を得る会」
  • OK:
    「新キャンペーン案の“穴”とリスクを洗い出す会」

最初から「承認ありき」にせず、「粗探しを正当化する」目的にしておくと、異論が出やすくなります。

2. ロールを明確に分ける

会議ごとに、以下の役割を決めておきます(兼任も可)。

  • 提案者:案を出す人
  • 懐疑役:意図的に弱点・リスクを突く人
  • ファシリテーター:感情論にならないように進行する人
  • 記録係:出た論点と決定事項を残す人

「懐疑役」は毎回持ち回りにして、「今日は◯◯さんが“ケチをつける担当”です」と宣言してしまうと、個人攻撃に見えづらくなります。

3. ルールを事前に掲げる

会議室のホワイトボードか冒頭スライドに、シンプルなルールを毎回出します。

  • 人ではなく、アイデアを批評する。
  • 「賛成です」だけの発言は禁止。必ず理由と条件を添える。
  • 反対意見を言った人を、会議後に個別で責めない。

これを形骸化させないために、最初の数回は経営陣・マネージャー層が率先して「自分の案にツッコミを歓迎する」姿勢を見せるのがポイントです。

4. アウトプットのフォーマット

会議の最後に、必ず次の3つを残します。

  1. 「やらない」と決めたこと
  2. 「やるが、条件付き」としたこと
  3. 「次に検証する前提・数字」

こうしておくと、「結局、何も変わらない会議」を減らせますし、異論が意思決定に反映されている実感も生まれると思うのです。

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