伊藤忠も動く「中古経済圏」という成長市場 ― “RE”が新しい消費のブランドになる時代へ

新品を求める消費社会から、「再利用・再発見の価値」を基軸とするリユース経済へ。近年、伊藤忠商事が中古事業に本格参入を進める動きは、その象徴と言えます。スマートフォンから自動車、そして書籍まで――不要品ではなく“資源”として循環させる仕組みが、いま経済を大きく動かし始めています。

MRD通信
20260415

2024年、伊藤忠は旧ビッグモーターを買収し、中古車再生事業「WECARS(ウィーカーズ)」として再始動。さらに2026年2月、ブックオフグループホールディングスに出資し、第2位株主となりました。これまで裏方にあった中古産業が、いまや消費者との接点拡大を担う戦略領域へと進化しているのです。

伊藤忠が持つ百貨店・アパレル・コンビニなどの流通ネットワークと中古流通の融合によって、“新品と中古のハイブリッド経済”が浮上。これは単なる中古販売ではなく、サステナブル消費の実践モデルといえるでしょう。

リユース経済新聞社の試算によれば、中古品市場(自動車・住宅を除く)は2024年に3兆円超、2030年には4兆円規模へ。

中古スマホ市場だけでも1兆6千億円にのぼる経済波及効果が見込まれています。米国ではすでに中古スマホ、古着、家具が流通の柱になり、日本でも「再価値化」という新潮流が本格化してきました。

背景にあるのは、人口減少・経済成熟・環境負荷減の3軸。新製品が売れにくくなる時代ほど、過去の価値を再編集する“再創造力”が求められるからです。

理由は、景気や節約志向だけではありません。もっと構造的な変化があります。

1つ目は、新品が以前ほど簡単には売れなくなっていることです。
少子高齢化が進み、市場が成熟すると、企業は新しい商品を次々売るだけでは成長しにくくなります。

2つ目は、モノの価格が上がったことです。
自動車もスマホも高額化し、「新品一択」ではなくなりました。高くなったからこそ、中古でも十分価値がある、という認識が広がっています。

3つ目は、消費者の感覚そのものが変わったことです。
特に若い世代にとっては、中古の本、服、ゲーム、スマホはもう特別なものではありません。新品か中古かよりも、「自分に合っているか」「納得できる価格か」のほうが重要です。

中古市場の拡大は、景気が悪いから起きているのではなく、消費の価値観そのものが変わった結果でもあるのです。

伊藤忠がブックオフと組んだ理由として、記事では「消費者との接点拡大」が挙げられていました。
これは非常に重要な視点です。中古市場にあるのは、在庫だけではありません。そこには、

  • 何が売れるのか
  • どの世代が何を選ぶのか
  • どの価格帯なら動くのか
  • どんな商品が循環しやすいのか

という、消費のリアルなデータがあります。つまり中古市場とは、単なる再販の場ではなく、生活者の本音が集まる観測地点でもあるのです。

新品の市場だけを見ている企業よりも、中古市場まで押さえている企業のほうが、顧客の行動を立体的に把握できます。だからこそ、商社のようなプレーヤーが本気で入り始めているわけです。

中古市場というと、どうしても「安さ」に目が向きがちです。もちろん価格は大きな魅力です。ただ、今後はそれだけでは弱い。これから重要になるのは、むしろ次の3つです。

1. 信 頼

中古は新品と違って、品質が均一ではありません。だからこそ、「ここで買えば大丈夫」という信頼が価値になります。旧ビッグモーターの問題が象徴的ですが、中古市場はうまみが大きい分、信用を失うと一気に崩れます。逆にいえば、信頼を作れる企業には強い追い風が吹く市場です。

2. 目利き

埋もれた価値を見つけられるかどうか。これは中古市場の本質です。同じ中古品でも、価値の見せ方、整備の仕方、売り方、組み合わせ方で収益は変わります。「何が売れるか」だけでなく、何を、どう価値化できるかが勝負になります。

3. 再流通の仕組み

買い取り、査定、整備、データ消去、物流、再販、保証。この一連の流れを設計できる企業が強い。中古経済圏とは、単に中古品を集めることではなく、価値を再生して流通させるインフラを持つことです。

特筆すべきは2。中古市場の成長を支える“目利き”の存在です。ものの真価を見抜き、再生と再流通の仕組みに乗せる知恵。ブックオフ、ハードオフ、コメ兵、トレジャーファクトリーなどの企業が築いてきた「評価の文化」に、今後はAIとデータによる精密な価値査定が重なるわけです。

この「価値を再構築する力」はデザインにも共鳴します。MRDが扱うブランド資産や制作物の再編集――それはまさに“リユースデザイン”の領域です。過去の成果を再利用し、新しい文脈で蘇らせる考え方は、ビジネスと文化の両面で広がりつつあります。

現在、自動車や住宅を除く中古品市場が2024年に3兆2628億円、2030年には4兆円に達するとの見通しが示されています。これはかなり大きい変化です。しかも、この流れは本、古着、ゲーム、スマホだけでは終わりません。今後はさらに広がっていくはずです。たとえば

  • 家電
  • ブランド品
  • 家具
  • 業務用品
  • 産業機械
  • 部材やパーツ
  • 法人の遊休資産

こうした分野でも、「新品を売る」だけでなく、「回収して再価値化する」発想が強くなっていくでしょう。ここで見落としてはいけないのは、中古市場の拡大は、小売だけの話ではないということです。メーカーも、商社も、物流も、修理も、ITも、金融も関係してきます。言い換えると、中古市場は一業種の話ではなく、経済全体の構造変化です。

リユース、リスキリング、リデザイン。英語表記で「RE」がつく言葉が、いまの日本経済を象徴しています。“再利用”から“再創造”へ。伊藤忠の動きに見えるのは、古いものを新しく生かすビジネスの磁力です。

中古市場はこれから、モノの売買を越えて――文化と価値を再編集する新しい経済圏へ。そこにこそ、成熟社会の成長戦略があります。

この流れを前にして、企業が考えるべきことは単純です。自社は「売って終わり」の会社のままでいいのかということです。市場が成熟していく時代には、最初の販売だけで関係が切れるモデルは弱くなります。一方で、中古・再販・回収・整備・アップデート・保証まで含めて設計できる企業は、顧客との関係を長く持てます。

つまり今後の競争は、「どれだけ売れるか」だけではなく、どれだけ長く価値を回せるかに移っていく可能性が高いのです。むしろ中小企業こそ、この流れをヒントにできます。たとえば

  • 下取りや買い替え提案を設計する
  • 修理・再整備メニューをつくる
  • 長く使うこと自体を価値として打ち出す
  • 中古・再生品を含めた提案をする
  • 使い終わった後まで含めてサービス化する

こうした設計は、大企業だけの専売特許ではありません。新品を売るだけの競争は、価格勝負になりやすい。ですが、再利用や再流通まで含めると、そこに独自性利益の余地が生まれます。

いま伸びているのは、中古市場そのものではありません。「REの経済」です。

Reuse、Repair、Resale、Recycle。

モノをもう一度生かす動きが、あらゆる業界で広がっています。その流れの中で、最後に問われるのはいつも同じです。それを、どう価値として見せ直すか。

ただ仕入れるだけでは弱い。ただ直すだけでも弱い。ただ安く売るだけなら、すぐに価格競争になります。必要なのは、価値の再設計(リ・デザインです。誰に、どう見せるのか。どんな意味を与えるのか。どんな体験として届けるのか。そこまで設計して、はじめて「再利用」は「再価値化」になる。

だからこそ、これから重要になるのはリユースだけではありません。 リ・デザインです。

モノが余る時代には、新しく作る力以上に、すでにある価値を掘り起こし、組み直し、もう一度社会につなぐ力が問われます。“RE”の時代とは、言い換えれば、リ・デザインの時代なのだと思います。

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