
最近、ナフサの供給について、専門家から「(日本は)このままだと6月で詰む」という、少し物騒な言葉が聞こえてくるようになりました。
ただ、こういう話は見出しだけで受け取ると危ない可能性もあります。調べた限りでは、6月に日本の暮らしが一斉に止まる、という話ではありません。ですが一方で、このまま供給不安が長引けば、暮らしは確実に傷みます。しかも、目に見えにくい形で。
それは「停電」や「突然の物流停止」ではなく、値上がり、欠品、医療資材のひっ迫、工場の減産という形で、じわじわ生活に入り込んできます。2026年4月時点で政府は、ナフサ由来製品の在庫と代替調達を合わせて少なくとも国内需要4カ月分を確保していると説明(これも間違っているっぽいですが)し、在庫期間を半年超に伸ばす方針も示しています。が、しかし、同時に一部品目で供給懸念が出ていることも認めています。
目 次
そもそも、ナフサとは何か
ナフサとは、原油からつくられる石油化学製品の原料で、プラスチックや合成ゴム、洗剤、接着剤など、私たちの暮らしを支える「見えない主役」です。
ナフサそのものを日常で目にすることはありませんが、その影響は家の中のほぼあらゆる場所に及びます。ペットボトル、食品トレー、家電の外装、自動車のバンパー、スマートフォンの部品、医療用のディスポ製品―こうしたものの多くが、ナフサ由来の素材を前提に成り立っています。
ナフサからは、エチレンやプロピレンなどの基礎化学原料がつくられ、そこからプラスチック、合成繊維、合成ゴム、洗剤原料、包装材、ボトル、医療資材などが生まれます。つまり、ナフサが不足するというのは、燃料が足りないという話よりも、暮らしを支えるモノの原料が細るという意味です。
本当に怖いのは、「全部が足りない」ではなく「必要なものだけ足りない」こと
全体として在庫がある。政府も「直ちに需給上の問題は生じていない」と言う。それでも現場は苦しくなり得ます。なぜかというと、暮らしや産業は、“総量”ではなく“必要な品目が必要なタイミングで届くか”で成り立っているからです。
これは供給網の典型的な怖さです。全体では足りていても、特定の素材、部材、医療用品、包装資材だけが詰まる。そうすると、社会は次第に不便になっていきます。
つまり、今回の論点は「日本全体の物量がゼロになるか」ではなく、どこで目詰まりが起きるかです。

政府が言う「在庫4ケ月分」というのは、「ナフサ2ヶ月」と「ナフサ加工後の基礎化学品以降のもの2ヶ月品」であり、ナフサは今のままでは2ヶ月しか持たないのだ、という説も出てきています。
もし供給が細ったら、何が止まる?
① 打撃を受けるのは「素材産業」
ナフサの供給が細る・止まると、まず打撃を受けるのは「素材産業」です。エチレンやプロピレンといった基礎化学品の減産が起こり、その先にぶら下がる合成樹脂や合成ゴムも供給が絞られます。
その結果として、次のような形で私たちの生活に現れます。
- コンビニやスーパーの 包装・容器 が簡素化される、種類が減る
- ペットボトルや食品トレーなど、特定規格のプラ製品が不足しやすくなる
- 自動車や家電の樹脂部品が不足し、納期遅延や受注制限、価格上昇が起こる
- 注射器や輸液バッグなどの医療用プラスチック製品のコスト上昇・調達難
- 配管材や断熱材など、住宅・インフラ向けの樹脂部材が上がり、工事費・見積もりにも波及
「品薄」と「値上がり」が、じわじわと広がっていくイメージです。
② 最初に起きやすいのは、値上がりと欠品
食品の包装、PETボトル、ゴミ袋、洗剤や化粧品の容器、家電部材、玩具、タイヤなど、石油化学由来の素材を使う製品は広く影響を受けます。ロイターは、アジア全体で食品、化粧品、玩具、家電など幅広い分野に影響が広がっていると報じています。つまり、生活者の体感として最初に来るのは、「いきなり何も買えない」ではなく、いつもの値段では買えない、いつもの仕様では買えないという変化です。
③ 次に問題になるのが、医療
現時点では、政府も厚労省も「ただちに供給が滞ることはない」と説明しています。ただその一方で、人工透析に使う透析回路や、手術時の廃液容器については、供給懸念がすでに具体的に指摘されています。政府は安定供給体制を立ち上げていますが、それは裏を返せば、放置してよい話ではないということです。
④ その先に来るのが工場の減産
ナフサは単なる“生活用品の原料”ではありません。製造業の基礎資材にもつながっています。原料や部材が細れば、工場は生産調整に入ります。すると、モノの供給だけでなく、企業の売上、設備投資、雇用、賃上げ余力にも影響が出る。ロイターも、今回の本当のリスクは単なる物価上昇ではなく、供給網の断裂による生産減と景気悪化だと伝えています。
私たちの暮らしには、どう効いてくる?
身の回りの変化として想定されるのは、次のようなものです。
- プラスチック包装が減る、簡素化される(デザインや素材の切り替えが進む)
- 選べる商品の種類が少しずつ減る(バリエーションの削減、規格統合)
- 「納期〇ヶ月待ち」が当たり前の商品が増える(自動車、住宅設備、家電など)
- じわじわとした物価高(エネルギー由来の値上げに加えて、樹脂由来のインフレ)
- 生活用品が高くなる
- 包装資材や消耗品が不安定になる
- 医療資材が優先配分になる
- 工場が減産し、景気が鈍る
- 家計は物価高と収入不安の両方に挟まれる
大きな停電のように一気に生活が止まるというより、気がつけば「なんとなくモノが高い・遅い・少ない」状態が標準になっていく。そんなタイプの危機です。しかも厄介なのは、これが一つひとつは小さく見えることです。ですので、社会全体としては、崩れているのに、崩れている実感が遅れていく。
企業・デザイナー・生活者としてできること
仮にナフサが2カ月で尽きたとしても、=2カ月後に生活が全面停止するということではないようです。ですがナフサ不足は、一企業や一業界だけの問題ではありません。「素材前提が揺れる」という意味で、ビジネスモデルやデザインの思想そのものを見直すきっかけにもなります。
- 代替素材の活用(紙、バイオプラ、ガラス、金属など)
- 容器・包装の簡素化、過剰包装の見直し
- 製品点数の整理・統合による生産効率の向上
- リサイクルしやすい構造・素材設計へのシフト
- 「長く使えるもの」を前提とした商品企画・ブランディング
MRDとしても、「ナフサありき」のデザインから一歩引き、サプライチェーンや素材リスクを前提にしたコミュニケーション設計やパッケージ提案が、これからますます重要になると考えています。
