【計算シリーズ】“採用コスト”ってあるけど、“離職コスト”もあるよね。1人辞めたとき、会社が被る「離職コスト」はいくらなの?

あるクライアントの会社で聴きました。「ベテラン社員が退職。それを新卒社員で穴埋めしようとしたのだが、上手くいっていない」というのです。調べると、この手の問題を抱えている会社は少ないようです。

考えてみたのですが、この構図で起きているのは「人を補充した」のではなく、現場に“見えないコスト”を移しただけの状態だということです。これを数字にすると、会話が一気に前へ進みます。

離職コストの相場感

一般に、離職コストは 年収の0.9〜2.0倍が目安とされます。SHRM(人事管理の実践に特化した世界最大の専門団体)は、直接的な補充コストが年収の50〜60%に達し得て、総コストは年収の90〜200%に及び得ると整理しています。

同様に Gallup(アメリカの世論調査及びコンサルティングを行う企業) も、置き換えコストは年収の「0.5〜2倍」になり得る旨を示しています。

ここで重要なのは、会社が見やすいのは「採用費(採用コスト)」だけで、差分の大半は“現場の稼働・残業・機会損失”として埋もれる点です。

離職コストの計算式

離職コスト =

① 採用コスト(求人・紹介・説明会等)
② 選考・受入の社内工数(人事+現場面接+手続き)
③ 立ち上がり損失(新人が戦力化するまでの“生産性ギャップ”)
④ 現場フォロー工数(OJT・質問対応・確認)
⑤ 残業・応援稼働(穴埋め稼働)
⑥ ミス・手戻り・品質事故(回収コスト)
⑦ 顧客影響(対応遅延、失注、解約の期待値)

「⑦ 顧客影響」まで入れると、0.9〜2.0倍のレンジに自然に収まります。

例:ベテラン(年収700万円)が退職→新卒1名配属のケース試算

前提(例)

  • ベテラン年収:700万円
  • ベテランの“価値(付加価値)”は年収の 1.5倍 と仮置き(それぞれの社内で倍率は異なる)
  • 新卒の立ち上がり:
    • 1〜3ヶ月:30%稼働(ギャップ70%)
    • 4〜6ヶ月:60%稼働(ギャップ40%)
    • 7〜12ヶ月:80%稼働(ギャップ20%)

① 採用コスト(新卒)

新卒採用コストは調査で「1人あたり」数十万〜100万円弱のレンジが示されています(例:就職白書で 72.6万円、別年で 93.6万円)。
約94万円(ここでは93.6万円で計上)

②〜⑥ 現場に乗る“見えないコスト”(ここが本丸)

  • 立ち上がり損失(生産性ギャップ)
    年700万 × 1.5 ÷12=月87.5万
    • 1〜3ヶ月:87.5万×0.7×3=183.75万
    • 4〜6ヶ月:87.5万×0.4×3=105万
    • 7〜12ヶ月:87.5万×0.2×6=105万
      合計 393.75万円
  • 残業(穴埋め稼働):例として 82万円(チーム合算で月60h×3ヶ月相当など、社内実績に置換)
  • OJT/質問対応(先輩の稼働):例として 54万円(120h相当など)
  • ミス・手戻り:例として 50万円(クレーム対応・再作業の期待値)
  • 手続き・受入工数:例として 20万円

合計(例)

  • 採用:93.6万
  • 立ち上がり損失:393.75万
  • 残業:82万
  • OJT54万
  • ミス・手戻り:50万
  • 受入工数:20万

総計:約693万円(= 年収の約0.99倍)

さらに、欠員期間が1ヶ月でもあれば(または顧客影響が顕在化すれば)、780万〜1,400万(年収の1.1〜2.0倍)は十分に現実的なレンジになります。

「現場の残業として消える」コストを、会社が見える形にする3点セット

現場が詰む前に、次の3つだけ数字化すると“構造問題”として通りやすくなります。

  1. OJT時間(h):誰が・週何時間を新人に使っているか
  2. 確認・差し戻し回数:承認フロー増で滞留している件数
  3. 顧客影響ログ:対応遅延、納期変更、クレーム、失注理由

これを「人件費」ではなく、“付加価値の毀損(機会損失)”として出すのがポイントです。

おしまいに

採用コストは、帳簿に載るから見えやすい。

でも離職コストは、現場の残業、引き継ぎの空白、ミスの回収、顧客対応の遅れとして、静かに社内へ散っていきます。数字に出ないぶん、気づいたときには組織の体力が削られている…。

だから経営者が見るべきは「どのくらい人件費を下げることができたか」ではなく、【退職という意思決定が、会社全体の生産性と信用をいくら毀損したか】です。

採用は投資。離職は損失。

採用コストだけを見て意思決定する会社は、必ずどこかで“現場が払う請求書”に追いつかれます。

経営の責任は、採ることだけではなく、辞めさせない構造をつくることにある、とMRDは思うのです。

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