「課題解決が得意な会社」は昔から評価されてきました。
しかしこれからは、課題を解く力そのものよりも、“そもそも何を課題として扱うべきか”を見つける力のほうが、競争力になっていきます。
言い換えるなら、課題解決は“後工程”で、課題発見は“上流工程”。
上流での一手が変わると、下流の努力量も成果も、まるごと変わります。

目 次
1. なぜ「課題解決」だけでは差がつきにくいのか
今は、解決策が増え過ぎています。右を向いても、左を向いても、ソリューション、ソリューション、ソリューション…。
- ノウハウはネットにたくさん転がっている
- テンプレートもSaaS(インターネットを通じてソフトウェアをサービスとして利用する仕組み)も増えた
- AIが、“打ち手候補”を瞬時に出してくれる
つまり、解決策が希少ではなくなった。のです。その結果、「何をやるか(解決策)」だけでは、差が出にくくなります。
一方で、ここが残ります。
- どの「問い」を立てるのか
- どこに違和感を見つけのるか
- 真因(本当の原因。問題点)をどこまで掘ることができるるか
これが、まさに課題発見です。
2. 課題発見とは「新しい問題を作ること」ではない
課題発見というと、大げさに“新規事業の種を見つける”のように聞こえますが、日々のビジネスではもっと実務的です。
課題発見とは、例えばこういうことです。
- 表面の要望(例:問い合わせを増やしたい)を、構造に分解する
- 現場の“困りごと”を、経営の言葉に翻訳する
- ばらつく事象から、共通する原因を見つける
要するに、「症状」ではなく「原因」を課題として扱える状態にすることです。
3. ありがちな「ズレた課題設定」例
中小企業の現場でよく起きるのは、課題がこうやってズレます。例えば…
- 「採用ができない」→ 実は「応募が来ない」ではなく「辞退が多い」
- 「売上が伸びない」→ 実は「新規」ではなく「既存の単価と継続率」が落ちている
- 「ホームページを刷新したい」→ 実は「見た目」ではなく「営業資料として機能していない」
このズレの怖さは、頑張るほど成果が出ないことです。正しい課題が立っていないまま解決に走ると、努力が“空回り”になります。
4. 課題発見の精度を上げる3つの視点
MRDとして、実務に落ちる視点に絞るなら、特にこの3つが効きます。
視点A:数字ではなく「変化」を見る
KPI(進み具合がわかる数字)だけを追うと、現場の違和感が消えます。見るべきは「前月比」よりも、“いつから・何が変わったか”です。例えば…
- 問い合わせの質が変わった
- 指名検索が減った
- 価格の話が早い段階で出るようになった
- 既存客の反応速度が落ちた
こうした変化が、課題の入口です。
視点B:「誰が困っているか」を特定する
課題は“現象”ではなく、困っている人の姿から立ち上がります。例えば…
- 現場(手間が増えている)
- 顧客(分かりづらい/比較しにくい)
- 採用候補(魅力が伝わらない)
- 管理部門(属人化で回らない)
“誰の詰まりか”が分かると、課題が立体になります。
視点C:課題を「一段抽象化」して再定義する
例えば「資料が弱い」という話が出たら、すぐに資料作りに行かず、
- そもそも、営業プロセスのどこで詰まっている?
- 初回商談の“説明”が悪い?“比較”が弱い?“安心”が足りない?
- 顧客の意思決定材料が不足しているのはどこ?
と、構造として捉え直す。ここが課題発見のコアです。
5. デザイン/制作の価値は「課題発見」に寄っていく
MRDの領域で言えば、デザインやサイト制作の価値も変わります。
- 以前:要望を形にする(制作の品質で勝負)
- これから:課題を言語化し、構造化し、勝ち筋を設計する(上流で勝負)
つまり、制作物はゴールではなく、課題の仮説を検証する手段になっていきます。
この転換ができる会社は、“作れる会社”から“効く会社”へ変わります。
6. 結論:課題発見は「打ち手の前の仕事」ではなく「価値そのもの」
課題解決が速いことは、もちろん強みです。ただ、速く解けても、問題設定が違えば成果は出ません。
だからこれからは「解く力」より「見つける力」が、より上流の価値になる。
MRD通としての結論はシンプルにこれです。
- 課題発見は “競争力”になりやすい
- 課題解決は “手段”になりやすい
◆ 中小企業の現場で起きる「課題設定ミス」あるある集 ベスト10 ◆
現場の努力が報われない原因の多くは、「解決策の質」ではなく、そもそもの「課題設定」にあります。ここでは中小企業で特に起きがちな“ズレ”を、現場で聞こえる言い回しのまま集めました。
あるある1:症状を課題だと思い込む(発熱を治そうとする)
よくある言い方
「問い合わせが少ない」「売上が落ちた」「人が辞める」
起きているミス
“結果”を課題扱いして、原因を掘らないまま打ち手に走る。
ズレの典型
- 問い合わせが少ない → 実は「商材が伝わっていない」「検討層が違う」「導線が途切れている」
- 売上が落ちた → 実は「単価が下がった」「既存の離脱が増えた」「利益率が崩れた」
見直しの一言
「それが起きた“理由”を、3つに分解すると?」
あるある2:手段が先に決まっている(結論ありき)
よくある言い方
「ホームページをリニューアルしたい」「SNSをやらないと」「採用サイト作るか」
起きているミス
“何をやるか”が先に決まり、目的・前提・優先順位が曖昧なまま進む。
ズレの典型
- HPリニューアル → 本当は「営業資料が足りない」「既存客フォローが弱い」
- SNS強化 → 本当は「そもそも顧客がそこにいない」「継続運用ができない」
見直しの一言
「それは“何のKPI(進み具合がわかる数字)”を動かすため?」
あるある3:社内の困りごとを“お客様向け課題”と混同する
よくある言い方
「うちの強みを伝えたい」「差別化が必要」
起きているミス
社内の願望(言いたいこと)を、顧客の判断軸(知りたいこと)と混ぜる。
ズレの典型
- 強みを伝えたい → 顧客は「自分の課題が解決するか」「失敗しないか」を知りたい
- 差別化したい → 顧客は「比較の物差し」を持っていない場合が多い
見直しの一言
「顧客が最初に不安になるポイントは何?」
あるある4:「ターゲット=全員」で設計してしまう
よくある言い方
「幅広く対応できます」「どの業界にも」
起きているミス
誰にも刺さらない“平均点”の表現になり、営業も採用も苦しくなる。
ズレの典型
- 全員向けにした結果、具体例も言葉も薄くなる
- 価格の根拠が出せず、結局“安さ勝負”に寄る
見直しの一言
「最も喜ばれている顧客を3社挙げると、共通点は?」
あるある5:課題が「部署の都合」で立っている(部分最適)
よくある言い方
「総務が忙しい」「営業が資料作れない」「現場が回らない」
起きているミス
部署単位の苦しさは本物だが、経営課題(売上・利益・継続)との接続が弱い。
ズレの典型
見直しの一言
「それが改善すると、どの数字(時間・回数・率)が動く?」
あるある6:データが“取れる範囲”に課題を合わせる
よくある言い方
「アクセス数が伸びない」「フォロワーが増えない」
起きているミス
見える指標(PV・フォロワー)に引っ張られ、事業に効く指標(商談・受注)を置き去りにする。
ズレの典型
- PV増 → 問い合わせ増に直結しない
- フォロワー増 → 採用応募や受注に繋がらない
見直しの一言
「最終的に増やしたいのは“何件”と“何円”?」
あるある7:原因を「人」で片付ける(属人化の罠)
よくある言い方
「あの人ができるから回ってた」「担当が弱い」「若手が続かない」
起きているミス
構造の問題(仕組み・導線・教育・権限)を、人の能力問題にすり替える。
ズレの典型
- 担当が弱い → 評価基準・手順・型がない
- 若手が続かない → 期待値調整とオンボーディングがない
見直しの一言
「その人が抜けても回る形にするなら、何が必要?」
あるある8:課題が“声の大きい人”で決まる(優先順位の崩壊)
よくある言い方
「社長が気にしてるから」「現場が言うから」「とりあえず急ぎで」
起きているミス
重要度より“緊急度”が勝つ。結果、常に火消し。
ズレの典型
- 本当は採用の再現性が最優先なのに、見積フォーマット改善が先に来る
- 目先のトラブル対応で、根治策が後回し
見直しの一言
「放置すると最も損失が大きいのはどれ?」
あるある9:「理想像」だけで語り、現状の障害を見ない
よくある言い方
「ブランディングしたい」「DXしたい」「一体感を作りたい」
起きているミス
理想は正しいが、現状の制約(人員・時間・権限・運用)が未確認のまま進む。
ズレの典型
- DX → 現場の入力負荷が増えて破綻
- 一体感 → 情報設計と会議体が変わらず空回り
見直しの一言
「実現を阻む“3つの壁”は何?」
あるある10:課題が抽象的すぎて、誰も動けない
よくある言い方
「もっと良くしたい」「強くなりたい」「ちゃんとしたい」
起きているミス
良い言葉ほど、アクションに落ちない。結果、何も変わらない。
ズレの典型
- “ちゃんと”の定義が人によって違う
- 期限も責任者も判断基準もない
見直しの一言
「“できた”と言える状態を、1文で定義すると?」
まとめ:課題設定ミスの共通原因は「翻訳不足」
多くのズレは、次の“翻訳”が途中で止まることから起きます。
- 現象 → 原因(構造)への翻訳
- 部署の困りごと → 経営指標への翻訳
- 企業の言い分 → 顧客の判断軸への翻訳
課題発見はセンスではなく、翻訳の手順です。
