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「府中市」を、「ビジネスの街」にすることはできると思う
私は府中市に住まいと事務所を構えていまして、通勤は徒歩3分です。いわゆる「職住近接」で通勤ストレスは一切ありません。
この環境にいると、ときどき思うのです。府中市を“ビジネスの街”にすることはできると。しかも、都心のコピーではない。府中ならではの、別の勝ち方で。
東京23区で起きている「家賃危機」という追い風
2025年11月時点で、東京23区のファミリー向けマンション(50〜70㎡)の平均募集家賃は、2人以上の勤労者世帯の可処分所得の45.5%に達しました。一般的に家賃は可処分所得の25〜30%が目安とされているのですが、これは相当無茶苦茶な数字です。
過去10年ほどは35〜40%で推移していたものが、2025年に入ってからは右肩上がりで上昇し続けている。マイナスな意味での爆上がりという感じです。「子供ができたら広い家に引っ越したいが、東京に住み続けるのは難しい」と地方移住を検討する20代夫婦の声も報じられています。
一方、府中市の賃貸マンション平均家賃は7万円台〜8万円台にとどまり、ファミリー向けでも10万円前後〜18.7万円程度で、都心の約半額以下です。
さらに、2024年度には他の都道府県に本社を移転した企業が1万6271社(前年度比18.7%増)となり、東京都は1158社の転出超過となりました。政府も2026年度税制改正で、東京23区から地方へ本社機能を移転する企業に対する法人税の減税幅を拡大する見込みです。
都心は、企業にとって「密度が生む加速度(採用・提携・情報・意思決定)」が魅力でした。しかし生活コストが臨界点に近づくと、密度のメリットよりも、
- 人材が住み続けられない
- ライフステージ(結婚・出産)で転出が増える
- 採用しても定着しない
- 賃上げが住居費に吸われ、実質満足度が上がらない
という“回転の悪化”が起きます。都心集中の前提条件が、いま静かに崩れ始めています。
つまり、いま府中は「都心の家賃危機」と「企業の地方移転促進」という2つの追い風を受けている状態です。
「ビジネスの街」=高層ビル群、ではない
まず定義を再考したいと思います。ビジネスの街とは、巨大本社が林立する街ではなく、次のような仕組みが回っている街のことだと思うからです。
- 起業が生まれやすい
- 会社が育ちやすい
- 人材が定着しやすい|人が残る
- 企業間の連携が起きやすい
- 事業の挑戦が循環する
都心が強いのは、密度が高くて“偶然の連鎖”が起きやすいからですよね。では府中はどうでしょう。府中は、都心と同じ密度では勝てません。その代わりに、再現性と継続性で勝てる街にはなれます。

ビジネスの街=企業が増える街、ではない。ビジネスの街とは、挑戦が生まれ、継続し、成果が再投資される“循環”がある街。

府中のポテンシャルは「時間資本」
都心でビジネスをする人の最大の見えないコストは、家賃でも満員電車でもなく、時間の溶けであると考えます。ここからの競争軸は「採用」より、「定着」と「時間資本」になります。
府中のように職住近接が成立しやすい街は、時間資本が都心と決定的に違います。徒歩3分の通勤(これが極端な例だとしても、です)は、単なる快適さでは説明がつきません。これは純然たる経営資源なのです。いわゆる「タイパ」が非常によい街であると言えます。
たとえば、通勤往復が1日2時間減るとします。年間(週5日×50週)で500時間。8時間労働換算で約62.5日分。
この「62.5日」は、何に変換できるでしょうか?
- 営業導線の整備(提案の型、事例、FAQ、LP)
- 発信(記事、動画、登壇資料)
- 採用(インタビュー、採用広報、カルチャー設計)
- 仕組み化(業務テンプレ、ツール導入、AI活用)
- 健康(睡眠、運動、回復)=継続力
都心は“密度で加速”しています。一方で、府中は“時間資本で積み上げ”るのです。この差は、長期戦で効いてくるはずです。府中が取りに行くべき価値は、次の2つです。
価値A:定着コストが低い
人が“住み続けられる”=定着コストが低いということです。通勤徒歩3分は、福利厚生ではなく生産性の源泉です。時間資本は、事業の武器(発信・仕組み化・学習・健康)に変換できます。
価値B:職住近接が生む“時間資本”
都心は採用母集団が大きい。府中は定着の母集団を作れます。企業経営で本当に痛いのは、「採れない」より「辞める」です。※MRD通信の【計算シリーズ】“採用コスト”ってあるけど、“離職コスト”もあるよね。1人辞めたとき、会社が被る「離職コスト」はいくらなの? をご一読ください。
府中はすでに「産業都市」の素地を持っている
北多摩エリアは都内で製造業従業者数が第2位、製造品出荷額は東京都全体の約27.9%を占め、その中核の一つが府中市です。
情報通信機器などの出荷額では、府中・昭島が都内生産の約7割を担っており、「ものづくりとテクノロジー」が共存する基盤をすでに持つ都市と言ってよいでしょう。
府中には、東芝府中事業所をはじめ大規模工場や物流拠点、技術系企業が集積し、「住宅地」と同時に「地域産業センター」としての顔も持っています。
JR・京王線・中央道・多摩川といったインフラも揃い、モノと人が行き交うためのハブとしての条件も整っているのが府中です。
「都心に集まる理由」を府中で代替できるか
スタートアップや企業が都心を選ぶ理由は、要約すると接点の回転数にあります。投資家、事業会社の意思決定者、採用候補者、コミュニティ、PRや法務など周辺機能──これらが都心に集中しているからです。
しかし、府中が都心と同じものを全て揃える必要はありません。これから揃えようとしても容易ではありませんしね。ここで重要なのは、都心のメリットを“住む”ことで得るのではなく、設計で取りにいくということなのです。仕組み作り。ここが府中を「ビジネスの街」にする鍵です。
府中をビジネスの街にする「仕組み」の発想
都市の競争は、施設ではなく設計で決まります。つまり「点」を増やすのではなく、「線」を引く。そして「線」を「面」にしていくのです。
① 接点密度を”イベント”ではなく”運用”で作る
月1回の大イベントより、週1回の小さな接点の方がはるかに強いです。ビジネスは偶然から始まり、継続で育つからです。
多摩地域のコワーキングスペースでは、事業者とユーザーの接点となる交流会・イベントを定期開催し、地域交流・ビジネスマッチングを実現しています。
そこで、府中で必要なのは、次のような運用ではないかと仮説立ててみます。
- 朝活ピッチ(15分×3人、毎週)
- 同業者ではなく”隣接業”で集める(紹介が生まれる)
- 参加者名簿を資産化して、次回につなぐ
大事なのは開催ではなく、紹介が起きる設計。これではないかと。
② 「採用の街」ではなく「定着の街」を目指す
都心は採用の母集団が巨大です。一方で府中は定着の母集団が作れます。
横浜ゴムは平塚への本社移転に際し、遠方に住む従業員に対して在宅勤務の経費補助制度を導入しました。
富士通はテレワーク継続により出社率が約2割にとどまり、川崎への移転でオフィス規模を縮小しながらAI研究開発拠点と経営機能を一体化させました。
そこから考えるに、府中の強みは次のようなものではないでしょうか。
- 通勤が短い(徒歩・自転車圏内)
- 子育て・生活が整う
- 心身が安定しやすい
- 長く働ける
つまり府中は、採用競争ではなく、離職コストを下げる街になれます。これは企業にとって、かなり大きいはずです。日本中あちこちで人材獲得競争、採用戦争が起きているのですから。
③ “事業会社×地域”の共創を、ひな形化する
府中は生活圏としての厚みがすごくあります。行政・学校・地域事業者・中小企業が近い。これを「連携しやすい距離」として活かすことも重要だと感じています。
- 実証実験が回る
- 地域ユーザーの声が集まる
- 現場の改善が速い
スタートアップにとっては、プロダクト改善の場になり得る絶好のロケーションです。
「府中型スタートアップ」という考え方
府中の強みは、スピードよりも、継続して勝つ仕組みにあります。都心は短距離走に強い。一方で、府中は中距離〜長距離で強いエリアです。
府中型の戦い方はこうです。
- 拠点は府中(集中・制作・開発・仕組み化)
- 接点は都心に取りに行く(週1〜2回で十分)
- 発信で距離を潰す(情報密度で勝つ)
- 地域で実証し、事例を作って外へ展開する
つまり、「都心か府中か」ではなく、府中を”本拠地”にして、都心を”活動圏”にするというものです。
MRD視点:府中をビジネスの街にする最短ルート
MRD的に言うと、街のブランディングはポスターではなく、導線で決まります。府中が「ビジネスの街」になるために最初に必要なのは、大規模な再開発よりも、次の3点だと思います。
- 事業者同士が出会う”定例運用”
- 定着を価値に変える”採用広報の型”
- 実証→事例化→外展開の”ストーリー設計”
この3つが回り始めた瞬間、府中は「やりやすい街」になる。そして「やりやすい街」には、人と企業が増える。
具体的な施策の3段階ロードマップ
■ すぐやれる(0〜3ヶ月)
- 府中駅周辺での週次「朝活ピッチ会」の立ち上げ
- 製造業×IT×クリエイター異業種交流会の月1開催
- 「家賃負担が都心の半分以下、可処分所得の20%以内で職住近接」というメッセージの発信開始
■ 仕組み化(3〜12ヶ月)
- 府中駅南口再開発エリアでのコワーキング・インキュベーション施設の設置検討
- 23区からの転入企業向け税制優遇パッケージの設計(固定資産税減免・職住近接型企業への補助)
- 東京都企業立地相談センター・府中商工会議所との定例連絡会設置
■ 文化化(1〜3年)
- 「府中発、職住近接スタートアップ」成功事例の体系的な発信とブランド化
- 14.9ヘクタールの未利用国有地をビジネス拠点として活用する計画策定
- 製造業集積地での「ものづくりラボ」設置(試作開発・ラピッドプロトタイプ機能)
まとめ:「府中市」を「ビジネスの街」にすることはできるか?できる!
「府中市」を「ビジネスの街」にすることはできるか? その答えは「イエス!」です。ただし、その意味は次の通りです。
- 都心のコピー(高層ビル・巨大本社)ではありません
- 高層ビルを増やす話でもないです。住宅用高層マンションは増え続けていますが。
- 重要なのは、密度を”設計”で補うことです
- 府中の武器は、時間資本と継続力!
府中は「通勤3分」が成立する街。それは、事業を強くする上で、想像以上に大きな資産です。
街の競争力は目に見える施設ではなく、人が挑戦を続けられる仕組みで決まります。
東京23区の家賃が可処分所得の45.5%に達し、企業が都心から流出し始めているこの瞬間こそが、府中がビジネスの街として立ち上がる最大のチャンス!
府中を、そういう街にすることはできると思います。
