目 次
1. 日本全体で見る「睡眠負債=何円問題」
日本は先進国の中でも特に睡眠時間が短い国だと言われており、その経済損失は年間で10数兆〜20兆円規模とも推計されています。凄まじい額ですね。
これは、日本のGDPのおよそ数%に相当するインパクトで、「眠れていない」というだけで国単位の生産性が大きく削られていることになります。(みなさん、毎日何時間寝ていますか?)
とはいえ、多くの経営者にとって一番知りたいのは「日本全体で何兆円か」ではなく、「うちの会社だといくら損しているのか?」という問いです。
そこで今日のMRD通信では、この“睡眠負債”を会社単位・社員1人単位の「金額」に落とし込んでみます。
■ 日本は先進国の中でも特に睡眠時間が短い国だと言われており、OECDの国際比較でも平均睡眠時間は加盟国中で最短クラスです。
■ 厚生労働省の調査では「ここ1か月、睡眠で休養が十分にとれていない」成人が約2割、慢性的な不眠など何らかの睡眠障害を抱える人はおよそ5人に1人とされ、推計患者数は約800万〜900万人規模にのぼるとされています。
■ こうした背景もあり、「睡眠障害」を標榜する専門医療機関や睡眠外来を持つクリニック、睡眠専門のクリニック等は全国で少なくとも百数十施設に増えてきており、終夜睡眠検査や睡眠時無呼吸症候群の治療(CPAP)など、睡眠医療のニーズは年々高まっています。
■ この「眠れない」「眠りが浅い」人の広がりが、生産性低下や医療費増大を通じて、日本全体で年間10数兆〜20兆円規模の経済損失につながっていると推計されているのです。

2. 睡眠負債が生む「1人あたり損失」のイメージ
各種調査では、睡眠問題を抱える社員は、集中力低下・判断ミス・欠勤や プレゼンティーズム(出社はしているが本来のパフォーマンスが出ていない状態)などにより、生産性が下がると報告されています。
海外の研究や国内企業の試算をならしていくと、「睡眠に問題のある社員1人あたりの年間生産性損失」はざっくり数十万円規模とされるケースが多く見られます。
例えば、

睡眠問題を抱える社員1人あたり、年間30万円前後の生産性損失
といった目安で語られることがあります。もちろん、業種・職種・給与水準によってこの額は変動しますが、「1人あたり数万円ではなく、数十万円単位のロスが出る」という感覚を持っておくことが重要です。
3. 自社で「ざっくり計算」してみましょう
まずは仮の前提を設置し、「自社の睡眠負債はいくらか?」をざっくり計算してみます。
前提条件(例)
- 社員数:100人
- そのうち、睡眠に不満・問題を抱えている人:60%(=60人)
- 睡眠問題がある社員1人あたりの生産性損失:年間30万円
この場合の「睡眠負債による年間損失額」は、次のように計算できます。
30万円×60人=1,800万円
つまり、社員100人規模の会社でも、「睡眠負債」という見えない要因だけで、年間約1,800万円分の生産性が失われている可能性がある、ということになります。
同じロジックを、もう少し大きな規模で見てみると、次のようなイメージです。
- 社員300人、睡眠問題を抱える人60%、1人あたり損失30万円
- 30万円×180人=5,400万円/年
- 社員500人、睡眠問題を抱える人50%、1人あたり損失25万円
- 25万円×250人=6,250万円/年
これはあくまで概算ですが、「それなりの規模の会社であれば、毎年数千万円規模のお金を“眠らずに”捨てているかもしれない」という感覚を持つには十分な数字です。
4. 健康経営でどこまで「回収」できるか
では、健康経営 の一環として「睡眠」をテーマにした施策を打った場合、どの程度この損失を取り戻せるのでしょうか。
各社の事例を見ると、睡眠教育・睡眠チェック・アプリ導入・働き方の見直しなどを通じて、「睡眠の質が改善した人」の割合が増えるとともに、欠勤日数の減少や自己申告ベースのパフォーマンス向上が報告されています。
ここでも仮に、
- 睡眠問題を抱える社員のうち、健康経営の施策によって「状態が改善する人」が半分(50%)
- 改善した人については、睡眠由来の生産性ロスが半減する
と設定してみたうえで、先ほどの「社員100人・年間1,800万円の損失」という会社で考えると、
- 睡眠問題あり:60人
- その半分(30人)が改善
- 1人あたりのロス30万円が半減して15万円に
このときの「回収できる額」は、
15万円×30人=450万円/年
となります。
もし、睡眠関連の施策に年間100〜200万円を投資したとしても、理論上は「数百万円のプラス」で返ってくる計算です。
もちろん、現実にはすべてが数字通りにいくわけではありませんが、「睡眠=福利厚生のオマケ」ではなく、「投資対効果が見込めるテーマ」として扱う価値があることが見えてきます。
5. どんな打ち手が現実的か
睡眠改善と言うと、「早く寝ましょう」「たくさん寝てください」で終わってしまいがちですが、健康経営の文脈では、もう少し具体的な打ち手に落とし込むことができます。
例えば、次のようなステップです。
- 現状把握
社員アンケートや簡易な睡眠チェックで、「睡眠に問題を感じている人の割合」「日中の眠気・集中力の自己評価」などを可視化する。 - 教育・リテラシー向上
専門家によるセミナー、社内研修、社報・社内ポータルでの情報発信などで、「なぜ睡眠が仕事のパフォーマンスに直結するのか」を伝える。 - 行動変容を支える仕組み
就業時間や残業のルール見直し、深夜メールの自粛、仮眠スペースの整備、睡眠計測アプリ・デバイスの補助など。 - 結果のモニタリング
欠勤・遅刻・労災・ヒューマンエラー件数、自己申告のパフォーマンスなどと、睡眠施策の実施タイミングを紐づけて経年で追う。
これらを「福利厚生」ではなく、「投資(コスト削減・利益改善)」として経営会議に上げるときの武器になるのが、今回の【計算シリーズ】的な「睡眠負債って何円?」という視点です。
6. あなたの会社の「睡眠負債」はいくら?
ここまで見てきたように、睡眠負債は「なんとなく身体に悪そう」というレベルではなく、社員1人あたり年間数十万円、会社全体で見れば数百万円〜数千万円規模の損失になり得るテーマです。
そして 健康経営 としてしっかり取り組めば、その一部を「回収」することも不可能ではありません。
最後に、問いを投げかけて終わりたいと思います。
- あなたの会社の社員数は何名ですか?
- そのうち、睡眠に不満や問題を抱えていそうな人は何割くらいでしょうか?
- 「1人あたり年間◯万円のロス」と仮説立てたとき、その合計はいくらになりますか?
その金額を一度、紙に書き出してみてください。
もしかすると、「来期の投資テーマ」の優先順位が、少しだけ変わって見えるかもしれません。
