他の都市から東京都へ移り住む人が増え続けています。総務省の2025年データによると、東京都への転入超過が6万5千人を越しました。女性の場合は男性を約1万人上回りました。2009年以降17年連続で、20代前半の女性流入が顕著になっています。
同じ仕事をしている男性より給料が安い|女性は管理職に昇進させてもらえない|出産したら正社員に戻れない|「女性活躍」は表向きだけ|男性より低く見られるなど、さまざまな要因がぞろぞろ。これは単なる都会への憧れなどが原因ではなく、「合理的な理由による離脱・脱出」であることが明白です。
これを「都会への憧れが強いからだ」や「わがままだ」等で片づけてはなりません。「地方都市は酷い。もう、こんなところには居たくない。でも東京なら!田舎ほど酷くないはず!出ていきます東京に!」という流れです。
「子育て支援が充実しているから来てください」等という発信も大切ですが、20代前半の未婚女性には届きにくいかもしれません。彼女たちが先に気にしているのは、育児環境より「(楽しく・幸せに)働き続けられるかどうか」という点だからです。
さて、東京都府中市は?と気になったので調べてみました。

目 次
府中市(東京都)はどうか
東京都府中市は「地方」ではありません。人口約26万人、JR武蔵野線・南武線・京王線が交差する多摩地域の中核都市です。しかし数字を見ると、似た構造が見えてきます。
- 出生数は8年連続減少。2023年は1,509人(2013年比▲33.7%)
- 若年女性(20〜39歳)人口は2050年までに▲7.7%と推計
- 居住期間20年以上の住民の割合は全国815市区中773位:来ても、なかなか根付かない街です
府中市の人口はすでにピークを超え、想定より10年以上早く26万人を割り込みました 。市の都市計画マスタープランでは2037年前後に26万人を下回る予測でしたが、すでにその状態に達しています 。転入数が転出数をわずかに上回る「社会増」は続いているものの 、出生数は8年連続で減少し、2023年は1,509人と2013年比で33.7%減という深刻な水準です。
転入者数は転出を上回っており、表面上は「転入超過」の状態です。ただ府中は通過点になっている側面があります。来るけれど、居つかない。
若年女性人口の減少
日本創成会議の試算によると「20〜39歳の若年女性人口」の2050年までの減少率は府中市で7.7%と予測されており、多摩地域では比較的低い部類ですが、決して安心できる数字ではありません 。近隣の稲城市(1.1%減)、狛江市(6%減)、武蔵野市(6.5%減)と比べると相対的に高い減少率です 。また「ブラックホール型自治体」(周辺から人を吸い込み若年女性も定着しない大都市型)には分類されていないものの、定着構造には課題があります 。
「合理的な離脱」は府中でも起きているか
地方からの離脱理由として挙げられるこの構造ですが、なんと府中市の文脈でも部分的に確認できます
| 指 標 | 府中市の状況 |
|---|---|
| 転入超過 | わずかにプラス(転入15,406人 / 転出13,519人) |
| 若年女性減少率(2050年推計) | −7.7%(多摩地域内で中程度) |
| 出生率(人口千人比) | 5.77人(全国平均5.98人を下回る) |
| 女性就業率 | 46.39%(815市区中467位) |
| 居住期間20年以上の割合 | 22.0%(815市区中773位 = 定着率が非常に低い) |
見えてくる構造
府中市は東京圏の「中継地」的な性格が強く、居住期間が20年以上の住民が全国下位4分の1に入るほど定着率が低いのです。転入してくる人はいるが、腰を落ち着ける街になっていません。若年女性が「仕事の質・キャリアの見通し・社会的プレッシャーから逃れる」ために東京都心部へさらに移動するという、東京圏内二段階の合理的移動が起きている可能性があります。
府中市として問われているのは「子育て支援の充実」という表面的な対策より先に、女性が正規雇用でキャリアを積み、10年後の自分が見える職場環境を市内に作れるかどうかです 。それができなければ、地方と同じ理由で「府中からさらに都心へ」という流れは止まらないでしょう。
東京都府中市の「若年女性流出防止」施策の実態
東京都府中市が現在打っている施策は、「若年女性の流出防止」を直接ターゲットにしたものはほぼなく、「市役所内部の女性活躍推進」と「子育て世代の受け皿強化」の2軸が中心です。
施策の全体像
① 市役所内部の女性活躍推進
高野律雄市長が「女性活躍推進」を選挙公約に掲げており、令和5年度に「男女共同参画推進本部」主導で「働きやすい職場づくり推進プロジェクトチーム」を設置しました 。具体的な取り組みとしては
- 職員アンケートによる業務負担の可視化と改善
- 男性育休取得の推進
- テレワーク環境の整備
- 管理職への女性登用(管理職比率の向上)

ただしこれはあくまで市役所職員向けの施策であり、民間企業や市民全体への波及効果は限定的です。
② 審議会・意思決定の場への女性参画
2023年に「府中市女性人材データバンク」を創設し、市の審議会・付属機関へ参画できる女性を約30名登録する取り組みを開始しています 。行政の政策決定に女性の声を反映させる仕組みではあるが、若年女性の定着・流出防止への直接的な効果は薄い段階です。
③ 子育て世代の受け皿づくり
市の「こども計画(令和7〜11年度)」として、保育環境の充実・子育て相談体制の強化・経済的支援の拡充を体系化しています 。これは既に「子育て世代になっている女性」をターゲットにしており、「20代前半・未婚女性が府中を選ぶ理由づくり」には直結していません。
施策の決定的な欠落
| 課 題 | 府中市の現状 |
|---|---|
| 市内民間企業の雇用の質・キャリア可視化 | 施策なし |
| 20代前半・未婚女性へのターゲット施策 | 施策なし |
| 一度出た女性が戻りたくなる設計(Uターン支援) | 施策なし |
| 職場のジェンダーバイアス是正(民間向け) | 東京都の条例制定待ちの状況 |
| 若年女性が府中を選ぶ「キャリア面の理由」の創出 | 構想段階にも至っていない |
根本的な構造問題
高野市長自身が「結婚・出産・子育てといったステージの変化で女性が仕事をあきらめる慣習が残っていた」と認めており 、問題の所在は把握されています。しかし現状の対策は市役所内部の改善に留まっており、民間企業に対して市が踏み込んだ介入をする施策は存在しません。

東京都が2025年に「女性の活躍を推進する条例」の制定を目指す動きを見せており 、府中市としては都の条例の後ろ盾を得てから民間企業への働きかけを強化するという「待ちの姿勢」にあります。
何が足りないのか?
「合理的に府中を離れる20代女性」に向き合うとしたら、次の3つが実質的に欠けているように見えます。
① キャリアの「見える化」
市内企業の職種・キャリアパス・女性管理職比率を公開し、就活・転職のタイミングで「府中の中から選べる」状態をつくること。
② Uターン設計
一度出た女性が30代で戻ってきたいと思える仕掛け。リモートワークを前提にした二拠点居住の提案、地元企業とのマッチング、「帰ってもキャリアが続く」という情報発信など。
③ ジェンダー構造への継続的な取り組み
企業文化のアップデートを「お願いベース」ではなく、市・商工会・NPOが連携して継続的に関わっていく仕組みにすること。
府中市で事業をされている経営者の方へ
若年女性の定着は、採用戦略とも深くつながっています。
求人を出しても応募が少ない。来ても、数年で辞めてしまう。
その背景には、「この会社にいても先が見えない」という判断があることが多いようです。
女性活躍は「社会的にいいこと」という文脈だけでなく、人材確保のための経営判断として考える時期に来ているのではないでしょうか。
キャリアパスの設計、フレキシブルな雇用形態、管理職候補としての女性社員への投資・・・
そういった環境を整えられる会社が、これからの府中で選ばれていくのかもしれません。
