「応募する条件」と「応募したくなる理由」は違います。

先日、SNSでこんな投稿を見かけました。

「求人票で『社会保険完備!!』とアピールしている企業は何がしたいんや。自動車販売店が『この車はブレーキ搭載です!!』と言っているようなもんやぞ。」

思わず笑ってしまいましたが、採用広報という視点で考えると、とても示唆に富んだ内容です。

もちろん、社会保険完備は大切です。求人票に記載することも必要です。しかし、多くの求職者にとっては、もはや「入っていて当然」の条件になっています。

例えば、自動車を買うときに、

「この車はブレーキが付いています」
「ハンドルがあります」
「シートベルトを装備しています」

と言われても、「だからこの車を買おう」とは思いません。それは、その商品が市場に出るための最低条件だからです。

「社会保険完備」は求職者にとって重要な条件です。だから求人票に書くべきですし、実際、それを重視して会社を探す人も少なくありません。しかし、企業が考えなければならないのは、そのです。

社会保険完備だから応募するのではなく、「この会社で働いてみたい」。そう思わせる理由があるかどうかです。

例えば飲食店でも「当店は食中毒を出しません」とは、あまり宣伝しません。もちろん重要です。しかし、それはお客様が期待する最低限の安心だからです。

その代わりに「この店でしか味わえない料理」「この店ならではの接客」「この店の雰囲気」を伝えます。

採用も同じです。社会保険や休日、給与は「安心」の情報。一方で、社員の人柄や仕事の面白さ、成長できる環境は「魅力」の情報です。

人は安心を確認した上で、魅力に惹かれて応募します。

  • 労災保険は原則として、従業員を1人でも雇えば加入義務があります。
  • 雇用保険は加入要件を満たす従業員がいれば加入義務があります。
  • 健康保険・厚生年金保険(いわゆる社会保険)は法人は原則加入義務があります。
  • 個人事業所は、常時5人未満の従業員で、かつ法定の非適用業種であれば、健康保険・厚生年金の加入義務はありません(任意適用となる場合があります)。

つまり、「社会保険完備」が会社の魅力になるケースも実際にはありえます。

求人票には、給与や休日、勤務地、勤務時間、福利厚生など多くの情報が並びます。これらはもちろん重要です。

しかし、多くは「応募できるかどうか」を判断するための情報であって、「この会社に入りたい」と思わせる情報ではありません。

応募したくなる理由になるのは、

  • どんな人が働いているのか
  • どんな仕事に挑戦できるのか
  • 会社は何を目指しているのか
  • 自分が成長できそうか
  • 上司や同僚との距離感はどうか

といった、その会社ならではのストーリーです。つまり、条件だけでは人は動かず、共感や納得で人は動くということです。

MRD通信

実は、この考え方は会社案内やホームページにもそのまま当てはまります。

例えば、

  • 創業50年
  • 実績1,000件
  • 高品質
  • 迅速対応

こうした言葉は、どの会社にも書かれています。

だからこそ、それだけでは差別化になりません。本当に知りたいのは、

「なぜ、この会社はそう言えるのか」
「どんな考えで仕事をしているのか」
「他社とは何が違うのか」

という部分です。

もちろん、「社会保険完備」を書かなくてよいという話ではありません。給与や休日、福利厚生、各種制度などは、応募前に確認したい大切な情報です。ただし、それは安心して応募するための材料であり、応募したくなる理由ではありません。

企業が伝えるべきなのは、「最低条件を満たしています」ではなく、「だから、この会社で働きたい」と、思ってもらえる価値です。

採用が難しい時代だからこそ、条件を並べるだけではなく、その会社ならではの魅力や考え方、人を伝えることが、これまで以上に重要になっています。

求人票は「募集要項」だけで勝負する時代ではなくなりました。条件は比較されます。しかし、価値観や仕事への想い、人の魅力は比較されにくく、会社独自の強みになります。

応募者は、会社を選んでいるようでいて、実は「そこで働く未来の自分」を選んでいます。その未来を具体的にイメージできる企業ほど、採用活動は強くなります。

条件は比較されます。しかし、「ここで働きたい」と思わせる理由は比較されにくく、企業の財産になります。