「サブウェイは好きだけど、注文はちょっと怖い」。そんな声は昔からよく聞かれました。最近、SNSやネットで見かけるのは、「それに比べて麻辣湯店は楽しい」というものです。
実によくわかります。サブウェイの場合、パンの種類から具材、ソース、野菜の増減まで、細かくカスタマイズできるのが魅力な一方で、「初めてだと何をどう頼めばいいのか分からない」「後ろに人が並んでいる中で、あたふたしてしまう」という“プレッシャー体験”でもあるからです。
それに比べて、ここ数年で一気に店舗数を増やしている麻辣湯(マーラータン)専門店は、なぜか楽しい。
こちらも自分で具材を選び、辛さや痺れをカスタムできる“セルフオーダー型”の業態ですが、若い世代を中心に「迷うのも含めて楽しい」「自分好みにできる」と、むしろポジティブに受け止められています。
同じ「カスタマイズ」なのに、なぜ片方は“苦痛”、もう片方は“楽しい”と感じられるのでしょうか。
この差を分解してみると、実は今、多くの中小企業が直面している「採用活動のつまずきポイント」と驚くほど似ていることが見えてきます。
サブウェイと麻辣湯の違いは、そのまま「応募者がどう感じるか」という採用体験の話に置き換えられます。
自由度の高さは同じなのに、「難しい」「怖い」と感じられるのか、「楽しい」「また来たい」と感じられるのか。この違いは、今まさに人材不足に悩む中小企業の採用にも、そのまま当てはまります。MRDが現場で見てきた「サブウェイ型採用」と「麻辣湯型採用」の違いを、ここから具体的にお話しします。

目 次
サブウェイはなぜ「怖い」と感じられるのか
まずは、サブウェイの注文体験を簡単に分解してみます。
- パンの種類・サイズを選ぶ
- 焼くか焼かないかを決める
- メインの具材を選ぶ
- 野菜の増減や抜き具材を指定する
- ドレッシングやトッピングを選ぶ
この「細かな分岐」が、すべて対面の口頭コミュニケーションで進んでいくのがポイントです。列の後ろには人が並び、店員はテキパキと質問を投げかけてくる。「えっと…」と迷う時間が、そのまま「後ろの人に迷惑をかけている感覚」につながってしまいます。
整理すると、サブウェイの“怖さ”は次の三つの掛け合わせです。
- 情報量が多い
- その場で即決を迫られる
- 間違えると恥ずかしい(損した気がする)
自由度の高さそのものが悪いわけではありません。「自由度の高さ × 対面プレッシャー」が組み合わさることで、“選ぶ楽しさ”より“間違える不安”が勝ってしまう構造になっているのです。これは、上陸直後のスタバでも感じていたことです。
麻辣湯はなぜ「楽しい」と感じられるのか
次に、麻辣湯専門店を見てみましょう。多くの店では、こんな流れになっています。
- 具材コーナーに並んだ野菜や肉、練り物、きのこなどを、トングで自分の器に入れていく
- レジで重さ(または個数)を計り、料金が決まる
- 辛さレベルや痺れ(花椒)の強さ、スープの濃さなどを選ぶ
具材数はサブウェイ以上に多彩なことも珍しくなく、価格ルールも「何グラムまでいくら」「何品までいくら」など決して単純ではありません。むしろロジックだけなら「サブウェイ以上に複雑」と言ってもよいぐらいです。
それでも多くのお客さんが「楽しい」と感じるのは、意思決定の大半がビュッフェ形式で完結しているからです。
- トングと器を持って、自分のペースで行ったり来たりできる
- 迷っても、誰の時間も奪っていない感覚でいられる
- 目の前に具材が並んでいて、「これとこれを組み合わせたら美味しそうだ」と視覚的に判断できる
店員とのやり取りは「器を渡す」「辛さを伝える」程度で終わります。サブウェイと同じくカスタマイズ型でありながら、「迷う=楽しい寄りの体験」に変換されているわけです。
サブウェイと麻辣湯の比較
せっかくなので、サブウェイと麻辣湯を比較してみます。
| サブウェイ | 麻辣湯 | |
|---|---|---|
| 選択方式 | 店員に聞かれて答える | 自分で見て取る |
| 心理 | 試されている感 | 遊んでいる感 |
| 正解 | 店員や常連の正解がありそう | 自分好みでよい |
| 失敗 | 恥ずかしい・面倒 | ネタになる |
| 商品イメージ | サンドイッチの完成度 | 自分専用の一杯 |
| 流行との相性 | 弱い | SNS・健康志向・刺激欲求と合う |
応募者から見た「サブウェイ型採用」とは
では、本題。この違いを採用の世界に持ち込んでみます。サブウェイ型の採用とは応募者から見てこんな状態です。
- 求人票に、条件や求める人物像が“全部盛り”で並んでいて、どこが大事なのか分からない
- 選考フローが長く、面接ごとに違う人・違う質問が飛んでくる
- 「とりあえず応募してみてから、あとは面接の中で聞いてください」というスタンスになっている
これはまさに、サブウェイでの対面カスタムと同じ構造です。
- 情報が多いのに整理されていない
- その場で即答すべきことが多い
- 間違えると落ちる(損をする)
こうなると、候補者は「ここ、本当に自分を歓迎してくれているのかな?」と不安になります。せっかく興味を持ってくれたとしても、途中で「やっぱりやめておこう」と離脱してしまうケースが増えていきます。採用担当者からは「応募が集まらない」「面接まで来てくれない」「最終で辞退される」という形で見えてくる現象です。
応募者から見た「麻辣湯型採用」とは
一方、麻辣湯型の採用とは、候補者が自分のペースで情報を取りに行き、組み合わせを考えられる状態を指します。具体的には、次のようなイメージです。
- 採用サイトや求人票を見れば、「この会社は何を大事にしているのか」が一目で分かる
- 「未経験から入っている人のキャリア例」「この職種の1日の流れ」など、モデルケースが用意されている
- 選考フロー(回数・内容・誰が出てくるか)が事前に開示されていて、候補者が心づもりをしやすい
- カジュアル面談など、“質問するための場”が用意されている
つまり、
- 事前に情報を“ビュッフェ”のように並べておく
- 候補者が自分のペースで選び・考えられる
- 対面では「最終調整」と「相性確認」に集中できる
という設計です。
サブウェイ型が「面接の場でいきなり全部カスタム」だとすれば、麻辣湯型は「事前に候補者自身が組み合わせを考えたうえで、対面では微調整だけを行う」スタイルと言えます。
採用・人材不足への“三つの示唆”
ここからは、MRDが各社の採用現場で感じている「サブウェイ型採用」から「麻辣湯型採用」へシフトするためのポイントを三つに絞ってお伝えします。
1. 自由度より先に「おすすめセット」を出す
麻辣湯店でも、常連だけでなく初めての人向けに、
- スタッフおすすめの具材セット
- 人気のトッピング組み合わせ
といった“モデル”が用意されていることがあります。「全部自分で考えてください」ではなく、「まずはこれを真似してみませんか」という入口を示しているわけです。採用で言えば、
- 「まずはこの職種・このポジションの話からしませんか?」という入口の明示
- 未経験向け・経験者向けなど、対象別のモデルキャリアの提示
- 高卒・第二新卒向けに、「入社1年目・3年目のイメージ」を具体的なストーリーで見せる
といった“おすすめセット”の整備が効いてきます。「何でもできます」「どんなタイプでも歓迎です」ではなく、「特にこういう人に来てほしい」「まずはここから一緒に始めましょう」と絞って伝えること。これは、応募者にとっての“注文ハードル”を下げることにもつながります。
2. 「対面で決めさせない」ステップを増やす
サブウェイのプレッシャーは、対面の場で、後ろに人が並んでいる中で、細かい判断を迫られるところにあります。採用も同じで、面接の場だけで「志望動機もキャリアプランも、ここで全部話してください」は負担が大きすぎます。そこでおすすめしたいのが、
- エントリーフォームや事前アンケートで、「希望する働き方」「得意・苦手」を整理してもらう
- カジュアル面談を設け、正式選考の前に“お互いの質問タイム”をつくる
- オンライン会社説明会や、10分程度の紹介動画を用意し、自宅でじっくり情報に触れてもらう
といった、「一人で考えられる時間」と「質問しやすい場」のセットです。対面の面接では、すべてをゼロから聞き出そうとするのではなく、事前情報をもとに「すり合わせ」と「相性確認」に絞る。これだけでも、候補者の心理的負担は大きく下がり、辞退率の低下につながっていきます。
3. 「選びたくなる理由」を束ねて見せる
麻辣湯がここまで広がっている背景には、「ヘルシー」「映える」「刺激的」「自分好みにできる」といった複数の魅力がセットになっていることがあります。どれか一つではなく、「これ全部、いっぺんに満たせる」という“価値の束”になっているのです。採用も同じです。
- 給与・休日などの条件
- 仕事の意味・社会への貢献
- 身につくスキル・経験
- チームの雰囲気や風土
- 将来のキャリアの広がり
これらをバラバラに伝えるのではなく、「この会社に入ると、こういう人生の選択肢が開ける」という物語として束ねて伝えることが重要です。「給料はそこそこ。でも、この仕事だからこそできる経験がある」「規模は小さいけれど、現場の裁量が大きく、若手が成長しやすい」。こうした“価値の束”が言語化されている会社は、知名度や規模では大企業に敵わなくても、採用でしっかり戦えている印象があります。
まとめ:採用を「麻辣湯型」にデザインし直す
カスタマイズできること自体は、サブウェイも麻辣湯も同じです。違いを生み出しているのは「どう選ばせているか」という体験設計の部分でした。
- サブウェイ型:その場で、対面で、細かく決めさせる
- 麻辣湯型:事前に情報を並べ、迷う時間も含めて楽しませる
採用活動もまた、「自由度そのもの」ではなく、「自由度との付き合い方」が問われています。
- なんとなく“全部盛り求人”になっていないか
- 面接の場で候補者に負担をかけすぎていないか
- 自社ならではの“価値の束”を、きちんと言語化できているか
人手不足が当たり前になりつつある今、中小企業にとっての採用は、「数を集める」フェーズから「選ばれる理由を磨く」フェーズへ変わりつつあります。
MRDでは、単発の求人票づくりにとどまらず、応募〜面接〜定着までをひとつの“体験”として捉え直し、「サブウェイ型採用」から「麻辣湯型採用」への転換をお手伝いしています。
「うちの採用、ちょっとサブウェイっぽいかも…」と感じられた方は、一度、自社の求人・選考フローを“お客さま視点”で眺め直してみてください。その違和感が、そのまま採用改善の出発点になるはずです。
