ブランドは売る場所で強くも弱くもなる ~ゴディバのニュースから考えるブランド拡張の難しさ

2026年6月末、高級チョコレートブランド「ゴディバ」の日本法人、ゴディバ ジャパンが、経営不振に伴いスポンサーの支援を受けて再建に乗り出す方針だと報じられました。

報道では、店舗戦略の見直し、人員配置転換、原材料調達コストの圧縮などが検討されているとされています。また、カカオ豆価格の高騰、人件費の上昇、借入金の利払い負担なども経営を圧迫した要因として挙げられています。

これを単純に「コラボをやりすぎたから失敗した」と言い切るのは乱暴なわけですが、ブランド戦略の観点から見ると、うーむと考えてしまいました。

ゴディバは、ベルギー王室御用達のプレミアムチョコレートブランドとして知られています。消費者の中にあるゴディバの価値は、単に「おいしいチョコレート」ではありません。

少し高い。
少し特別。
誰かに贈るときに失礼がない。
自分へのご褒美として、少し気分が上がる。

この「少し特別」という感覚こそが、ブランド資産なわけですが…。

MRD通信

近年のゴディバは、ローソン、ミスタードーナツ、セブン-イレブン限定アイス、ベーカリー、カフェ、焼き菓子など、接点を大きく広げてきました。このゴディバ、われらが府中駅にもあるのですねぇ。正式には 「ゴディバ ぷらりと京王府中」。この店舗を数年にわたって見てきた身としてましても…。

もちろん、これは悪いことばかりではありません。高級ブランドも、若い世代や日常の消費者との接点を持たなければ、忘れられていきます。入口を広げること自体は必要でしょう。

で問題は、入口を広げたときに、奥にある本丸の価値を守れていたかどうか?であります。

ブランドは、名前を広めれば強くなるとは限りません。むしろ、名前を出す場所を間違えると、強かった名前が普通の名前になっていきます。

府中駅の「ゴディバ ぷらりと京王府中」を見たときに、「え?こんなところでも買えるの?買えちゃうの?」というのが第一印象でした。今回の話で言えば、府中駅でも日常導線の中にゴディバが入っている、ということです。ブランドの“特別感”を考える上では、まさに象徴的な立地です。

ゴディバの場合、本来であれば「高級ギフトのゴディバ」と「日常接点のゴディバ」を、もっと明確に分ける必要があったのではないでしょうか。ブランドの“ありがたみ”ってやつですね。

実際、ゴディバには日常寄りの商品・業態も存在します。

例えば「G キューブ」。これはプチギフトや自分へのご褒美向けの商品として展開されています。「G Butters’」は焼き菓子領域の商品です。また「GODIVA café」や「GODIVA Bakery ゴディパン」も実在し、カフェやパンという日常接点を広げる業態として展開されています。

一方で、上位体験を担う業態として「ATELIER de GODIVA」も実在します。これは、ゴディバのクラフツマンシップやチョコレートアーティストリーを楽しむ場として位置づけられています。

つまり、ゴディバには本来、ブランドを階層化する材料はありました。ええ、あったんです。

GODIVA本体は、百貨店、直営店、高級ギフト、法人贈答を担う。
G キューブやG Butters’は、日常の小さなご褒美やプチギフトを担う。
GODIVA caféやゴディパンは、体験型の入口を担う。
ATELIER de GODIVAは、職人性や限定性を伝える上位体験を担う。

ここまで役割が明確に整理されていれば、ローソンやミスドとのコラボも、単なる安売りにはなりません。

「コンビニで買えるゴディバ」ではなく、「ゴディバの世界に入るための入口」になる。ここが大きな違いです。

なお、「G by GODIVA」や「GODIVA Reserve」は、日本で明確に展開されている正式ブランド名として確認できたものではありません。これらは、あくまでブランド階層を説明するための仮称です。

仮に「G by GODIVA」のような日常向けサブブランドがあれば、コンビニやドーナツ店との共同開発はそちらに寄せる。仮に「GODIVA Reserve」のような上位ラインがあれば、希少カカオ、限定ギフト、百貨店限定商品、法人贈答をそこに集約する。

そうすれば、ゴディバ本体の看板を守りながら、日常需要も取りに行けた可能性があります。

ブランド拡張で大切なのは、「広げること」ではないと思っています。「広げても、中心が薄まらないこと」です。ここが非常に難しい。

価格を下げる。販路を増やす。コラボを増やす。手に取りやすくする。

これらは一見、成長戦略に見えます。しかし、プレミアムブランドの場合は注意が必要です。売上は増えても、ありがたみが減ることがあるからです。

一度「どこでも買えるブランド」になると、もう一度「特別なブランド」に戻すのは簡単ではありません。

中小企業にも同じことが言えます。

少しでも売上を増やしたい。新しい客層を取りたい。値段を下げれば問い合わせが増えるかもしれない。大きな会社と組めば認知が広がるかもしれない。そう考えるのは自然です。しかし、自社が本来選ばれている理由まで削ってしまうと、あとで苦しくなります。

安さで選ばれる会社なのか。
専門性で選ばれる会社なのか。
対応力で選ばれる会社なのか。
安心感で選ばれる会社なのか。
人柄で選ばれる会社なのか。

ここを曖昧にしたまま販路だけ広げると、会社の印象はぼやけます。

ブランドとは、ロゴやデザインだけではありません。お客様の頭の中にある「この会社は、こういう存在だ」という記憶です。

その記憶を強くするのがブランド戦略です。その記憶を薄めてしまうのが、場当たり的な拡張です。

ゴディバのニュースから学ぶべきことは、コラボが悪い、低価格商品が悪い、という単純な話ではありません。本当に重要なのは、こういう問いです。

  • どこで売るのか。
  • 誰に売るのか。
  • いくらで売るのか。
  • どの名前で売るのか。
  • その商品は、本体ブランドを強くするのか、弱くするのか。
  • 売上を伸ばすための施策が、ブランドを削っていないか。

ここを見誤ると、短期的には売れても、長期的には選ばれる理由が弱くなります。ブランドは、広げれば広げるほど強くなるものではありません。

むしろ、どこまで広げるか。
どこから先は広げないか。
どの名前は守るか。
どの領域は別ラインにするか。

その線引きこそが、ブランドを守る仕事です。

ゴディバのニュースは、大企業だけの話ではありません。むしろ、限られた信用で勝負している中小企業ほど、ここから学ぶべきことがあります。

売上を追うことは必要です。ただし、何でも売ればいいわけではありません。

自社の名前を、どこに出すのか。
自社の信用を、何に使うのか。
自社の価値を、安く見せていないか。

ブランドは、派手な広告でつくられる前に、日々の判断で削られていきます。

だからこそ常々、成長したい会社ほど、「どこで売るか」だけでなく、「どこでは売らないか」を決める必要があると思っているのです。