先日、「政府がアスクルと組んでシンナーの直接販売を始めた」というニュースを見ました。
最初に聞いたときは、正直少し驚きました。シンナーを政府が?しかもアスクルで?まるで事務用品を注文するように、現場向けのシンナーを届けるという話です。
しかし、よくよく内容を見ていくと、これは単なる変わったニュースではありませんでした。むしろ、いまの日本の物流や商流の弱点を、非常にわかりやすく示している出来事だと感じました。
今回のポイントは、「シンナーがまったく存在しない」という話ではないということです。問題は、必要なところに、必要なタイミングで届かないこと。つまり、流通の途中で“目詰まり”が起きていたということです。
経済産業省も、原油や石油製品については日本全体として必要な量は確保できている一方で、一部で供給の偏りや流通の目詰まりが起きている、という見方を示しています。

実際、川上から「5月以降の供給は未定」と伝わっただけで、4月分の出荷まで半減してしまった例も説明されています。

これまでの流通ルート
通常、シンナーは次のような流れで現場に届きます。
石油化学メーカー
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商 社
↓
シンナーメーカー
↓
卸売業者
↓
小売・販売店・資材店
↓
塗装業者・工務店・自動車整備会社
↓
現 場
平時であれば、この仕組みはよくできています。卸や小売は、地域ごとの需要を見ながら在庫を持ち、取引先に小口で供給し、細かな相談にも対応します。
ところが、ひとたび先行き不安が出ると、この多段階の流通が弱点になります。
「来月、本当に入ってくるのか」「全部出してしまったら、自社の得意先を守れない」「重要な顧客の分だけは確保しておきたい」
こうした判断が各段階で起きると、悪意がなくても、結果としてモノが止まります。誰かが露骨に買い占めたというより、それぞれが自衛に走った結果、末端の現場が干上がってしまいます。これが今回の“目詰まり”の本質だと思います。
アスクル式の緊急ルート
そこで政府が作ったのが、メーカーから需要者へ直接届けるルートです。
シンナーメーカー
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アスクルの物流倉庫
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アスクル配送網
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国交省・経産省の相談窓口を通じた事業者
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現 場
国土交通大臣はシンナーメーカーからの直接販売の仕組みを新設し、6月23日から注文可能になると発表しました。対象は国交省や経産省の相談窓口に相談・情報提供し、購入を希望した事業者です。
さらに、千葉県柏市のアスクル物流倉庫には、直接販売向けのシンナー720缶が搬入されたと報じられています。価格は1缶税込1万3,500円。注文を受けた翌々日には発送するという説明もあります。

ここで重要なのは、政府が新しい物流網をゼロから作ったわけではない、という点です。すでに全国配送の仕組みを持っているアスクルの物流網に乗せた。これは、かなり実務的な判断です。

「中抜き」ではなく「詰まり抜き」
今回の仕組みを「卸や小売を不要にする動き」と見るのは、少し違うと思います。
卸や小売には平時に大きな役割があります。地域の現場を知っている。小口対応ができる。急な相談にも乗れる。取引先との信用関係もある。
ですから、これは恒久的に中間流通を飛ばす話ではありません。むしろ今回の本質は、中抜きではなく、詰まり抜きです。
いつものルートが詰まってしまった。だから、緊急時だけ別ルートを作った。メーカーからアスクル倉庫へ入れ、そこから必要な現場へ直接届けるという。これは、流通のバイパス手術のようなものです。
なぜ現場は止まりかけたのか
現場にとってシンナーはただの材料ではありません。塗装、洗浄、希釈、補修。建設、自動車整備、製造、さまざまな仕事の裏側で使われています。
たとえば塗料があっても、適切に薄められなければ使えない。作業後の洗浄ができなければ、道具も設備も維持できない。一斗缶ひとつが届かないだけで、仕事全体が止まることもあります。
つまり、シンナー不足は単なる資材不足ではありません。現場の作業工程そのものを止めるリスクなのです。だからこそ、今回のように「必要なところへ直接届ける」仕組みは、非常に意味があります。
今回のニュースから見えること
今回の件から見えてくるのは、ひとつの教訓です。
それは、モノがあることと、届くことは違うということです。
在庫はある。生産もされている。でも、途中で情報が止まる。不安が広がる。各社が守りに入る。すると、必要な現場には届かなくなる。そして、これはシンナーに限った話ではない。
印刷物でも、資材でも、部品でも、人材でも、情報でも同じです。全体としては足りているように見えても、必要な場所に届かなければ、現場は止まります。
今回、政府がアスクルという既存の民間インフラを使ったのは、かなりスピード感のある対応だったと思います。役所が一から仕組みを作るのではなく、すでに動いている物流網に乗せる。これは、緊急時の対応としては非常に合理的だと思いました。
もちろん、これで全国のシンナー不足が一気に解決するわけではありません。初回720缶という数字を見ても、あくまで応急処置であって、本当に必要な現場に十分量が届くかどうかは、これからの運用次第です。それでも、今回の対応には見るべき点があったと思いました。
問題を「供給量」だけで見ず、「どこで詰まっているのか」まで見に行った。そして、詰まっている中間流通を一時的にバイパスした。これは、なかなかよくできた処置だと思います。

中小企業にも他人事ではない
中小企業にとっても、この話は他人事ではありません。
売上が伸びない。
問い合わせが来ない。
採用応募が来ない。
情報が伝わらない。
こうした問題も、実は「商品が悪い」「会社に魅力がない」というより、届くべき相手に、届くべき形で届いていないだけかもしれません。
流通の目詰まり。
情報の目詰まり。
採用導線の目詰まり。
営業導線の目詰まり。
どこかが詰まれば、全体は止まります。
今回のシンナー直販のニュースは、単なる資材不足の話ではなく、目詰まりを見つけ、必要なら別ルートを作ることの大切さを教えてくれる出来事でした。
平時の仕組みは大切です。でも、非常時には、いつものルートにこだわりすぎてはいけない。必要なのは、犯人探しではなく、流れを戻すこと。現場を止めないこと。
シンナー不足のニュースは、そんな当たり前だけれど大切なことを、あらためて思い出させてくれました。
